パビリオンの大きな花瓶にパン女官とチョン女官が花を活けている。
 
「ちょっと~こんな花しかなかったわけ?」
「仕方ないじゃない。交泰殿の女官とちょっと立ち話をしていたら…」
「立ち話なら後でもできるでしょ?」
「そこは素直に謝るわ」
「次は気を付けてよ」
 
 二人がそんなことを言いながら手を動かしていると、ふと冷気が感じられた。
 パビリオンのガラス戸が少し開いている。
 小さな鈴の音を響かせて、そこからソラがするりと入ってきた。
 隙間風が入ると寒い。
 パン女官が扉を閉めようとしたとき。
 ソラがピクリと小さく体を震わせて、その隙間の向こうをじっと見つめるようなしぐさをした。
 パン女官は不思議に思いつつ、ガラス戸を閉じようと手を伸ばした。
 外は小雪がちらついている。
 今年の冬は雪が少なかった。
 目の前の庭も人が歩く玉砂利部分に雪はなく、その周りの草木に少しだけ雪が積もっている状態だ。
 その中を、チェギョンがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
 針房での用事は終わったようだ。
 しかし、なぜ庭側から歩いてきているのか。
 針房の位置的にそちら側を歩いてくるにはおかしい。
 ましてや、チェギョンはコートも何も羽織っておらず、その頭にも雪がまとわりついているのが見えた。

「妃宮様!」

 パン女官の声にチョン女官も反応する。
 慌てて外に飛び出し、その体を抱きしめた。
 あまりにも冷たくなっているその体。
 しかし、チェギョンはぼうっとしているだけだ。
 チョン女官がとりあえず…と言った感じでブランケットを持ってきて、それをチェギョンの肩に羽織らせた。
「さあ、早く部屋の中へ!」
 引きずられるようにして、チェギョンはパビリオンの中にやってきた。
 ふわりと温かい空気にパン女官とチョン女官がほっと一息ついた。
 「失礼いたします」と声をかけ、パン女官はまずチェギョンの頭の雪を払った。そして頬を手のひらで包み込んで優しく摩擦する。
 その間に、チョン女官がミニキッチンへ向かい暖かい飲み物を用意しているようだった。
「妃宮様、針房の後、どちらかへおいでだったのですか?」
 パン女官がそう問いかけるも、チェギョンはその声も聞こえないかのように、ただ真っ直ぐ一点を見つめている。
 あまりにも様子がおかしかった。
 嫌な考えが頭の中を駆け巡る。
「リュ…内官にお会いになったのですか?」
 恐る恐る…パン女官は小さな声で訪ねる。
 ピクリとチェギョンが反応した。
 少しばかりほっとしたが、それがリュ内官であることに不安は大きくなるばかりだ。
 とにかく…。
 パン女官はリビングのソファにチェギョンを座らせると、もう一枚そばにあったブランケットを手繰り寄せ、脚にもかけた。
「妃宮様、何をお持ちですか?」
 チェギョンは手の中に何かを握り締めていた。
 冷え切って白くなった手が、何かを固く握りしめている。
 チェギョンはそれをゆっくりと目の前にかざし、そしてそれを軽く振った。
 箱…はカサリと小さな音を立てた。
 チェギョンはゆっくりとその箱のふたを開けた。
「まあ…あの時のリボンでございますね。なるほど、こちらを受け取って…。でも、こちらはやはり針房で受け取られたのですよね?なぜあちらの方向から…」
 パン女官もチェギョンがあの時のリボンを何か別の形で残してお行きたいと言っていたのを知っていたし、それを針房の尚宮に依頼していたのも知っていた。
 なのに、目の前のチェギョンは無言のままそれを見つめるだけで、嬉しそうな表情一つ見せるわけでもなく…。
 なんとなくだが…こんなチェギョンには覚えがあった。




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2017.11.13 久しぶりの…つぶやき

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