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ちはやのつぶやき

韓国ドラマ【宮】の二次小説・つぶやき中心のブログです。

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2020-02-27 (Thu)

【夏宵奇譚】第4章

【夏宵奇譚】第4章

【第4章 閑話休題】 後宮の厨房は妃候補の夕餉の準備で毎回てんやわんやだ。それというのも、その〈妃候補〉達の気まぐれで、ほぼ毎回品書きの変更があるからだ。やれ、この料理は嫌いだ、やれこの野菜は食べたくない、今日はこの果物が食べたい等々…。「まったく、我儘にもほどがあるわよね」「まだ妃候補ってだけなのにね」「今からこれだと、お妃が決まった後はどうなるのかしらね」「うわ…考えたくもないわ」 厨房の女官た...

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【第4章 閑話休題】

 後宮の厨房は妃候補の夕餉の準備で毎回てんやわんやだ。それというのも、その〈妃候補〉達の気まぐれで、ほぼ毎回品書きの変更があるからだ。やれ、この料理は嫌いだ、やれこの野菜は食べたくない、今日はこの果物が食べたい等々…。

「まったく、我儘にもほどがあるわよね」
「まだ妃候補ってだけなのにね」
「今からこれだと、お妃が決まった後はどうなるのかしらね」
「うわ…考えたくもないわ」

 厨房の女官たちは、流石というべきか…手を動かしながらおしゃべりをしている。しかもその動きに無駄なものは一切ない。急に告げられた品書き変更された料理も次々に出来上がっていく。
 せめて作る前に変更が分かれば良いのだが、あらかた出来上がった後の変更には本当に参る。
 無駄になった料理は必要なくなったとはいえ、女官である自分たちの口に入ることは許されていない。つまりは廃棄処分。後宮の妃候補たちが口にするものは王の物よりは劣るとはいえ、それなりに高級だったり珍しい物だったりするのだ。それが無駄になる事でも女官たちは良い思いを抱いていない。
「でも…ほら、ハヌルさんのところの…」
「ああ、チェギョン様ね。あの方の我儘は聞いたことがないのよね」
「それって、あのハヌルさんに言いくるめられてる…とか?」

「あら、それはないわね」
 
 おしゃべりを聞いていたヒスンがチェギョンの分の食事を皿に盛りつけながら話に入ってきた。
「ご本人に直接お話を伺ったんだけど。私たちの仕事ぶりを見てそれは感心されててね。」
「そうなのよ~」
 ヒスンが盛り付けの終わった皿を台車にのせながらスニョンも話に入ってきた。
「どうしても食べられないものは残してしまうかもしれないけど、作ってくれる私たちに感謝してるからって」
「へぇ~。女官の私たちの事を気にかけてくれる妃候補なんて聞いたことないわ」
「あの方はそういう方よ。王陛下がお気にいられてるって噂もあるけど…あの方が第一位の妃になってくれたら後宮にも新しい風が吹くかもね」
 ちょうど配膳の時間になった。
 それぞれの妃候補たちの要求通りに作られた料理を間違えないようにそれぞれの部屋に運び出す。
 それらを見送り、残った女官は調理器具の片づけに入る。それが終わると翌朝の食事の材料のチェックをしていると、食事の終わった部屋から食器が戻ってくる。
 あれこれ品書きに注文を付けてきたくせに食べ残しが多い。
 その食器の後片付けが終わるとようやく後宮の厨房も一息つける時間だ。
 そんな彼女たちの働きぶりをこっそり観察している人物が一人。
 女官長のスヨンである。
 不定期でこうして厨房の観察も行っている。現場から上がってくる報告書だけでは本当の事はわからない。
 ふ…と、スヨンの口角が上がる。これではあの脱走癖がある王と同じではないか。結局はおのれの目で見た事実がすべてなのだ。
「女官長様!どうされましたか?」
 ちょうどチェギョンの部屋から食器を下げてきたヒスンが厨房の入り口に佇むスヨンに気づいて声をかけてきた。
「いえ、厨房長に話があってきたのだけれど…」
「すぐに呼んでまいります」
 ヒスンが急いで奥へと駆けていく。その背中を見つめ、スヨンは自分が女官として王宮へ入ったばかりのころを思い出し、小さな笑みを浮かべた。



 チェギョンが茶会の席からいなくなったと報告を受けたハヌルはたいして驚きもしなかった。
 ただ、王が最初にチェギョンだけが居なくなったのに気づき、それをさりげなくそば付きの内官に伝え、茶会自体は何事もなく続けられた。その内官がチェギョンの部屋までやってきて、ハヌルに事の次第を伝え、やはり部屋にも戻ってきていないことがわかると苦笑いを浮かべて帰って行った。
 茶会参加に強制はない。それは誰もが知っていることだし、参加したからと言って途中で席を退席したって咎められるものでもない。しかしさすがに王もその場にいるのだから、何かの理由で退席するならそれなりの挨拶があってしかるべき…だが。
他の妃候補の娘たちも、もうチェギョンの行動に目くじらを立てたりはしなくなっていた。あまりに自由奔放すぎる性格に、自分は妃になるつもりなどないと思っていることがなぜだか知れ渡っていたからだ。ただ、王が気に入っているのだけは目障りではあったが、〈毛並みの変わった猫〉を王が気に入っているだけ、そう思うことにした。だって、万が一にもチェギョンが妃の指名を受けることがあったとしても、第一位の妃にはなれない。それだけの理由をチェギョン自身が背負っている事を知っているからだ。実家の財力はもちろん、有力な後見人にすら他の妃候補の娘たちには勝てない…のだから。
 ただ一つ、心配なのは…。
 
 夕食も終わり、ハヌルは鏡と向き合っているチェギョンの背後に立った。そして櫛を手に取るとチェギョンの長い髪を梳く。
 茶会の席から黙っていなくなったことに関して、女官の立場からそれなりに説教じみた小言を伝えられはしたが、チェギョンの自由さにハヌル自身ももうあきらめにも似た感情を抱いていた。チェギョンが言うには庭の花があまりにきれいだったので一人ふらふらとその場を離れてしまった…らしい。
 後宮にいる限り、外の…王宮の外に出ることはできないのだから大丈夫、だと。
「明日、離宮の皇太后さまお二方の主催で花見の宴が開かれるそうです」
「ええ~~…」
 語尾がしぼんだチェギョンの感嘆の声。鏡の中に映るチェギョンの表情はあまりにもわかりやすかった。
「茶会のように出席に強制がないのとは違い、この宴は皇太后さまより正式に妃候補の皆様に招待状が渡されるものです。顔合わせの儀
の夜の宴のように、今回仮病は使えませんのでご承知おきを」
「う…っ。そうなのね」
「はい。宴の席は自由に着飾って出席しても良いとお達しも出ておりますので、この私に支度はお任せください」
 チェギョンは顔合わせの儀の時の事を思い出す。
 あの時も簪やらなにやら装飾品をハヌルが先行投資だと言って用意してくれた。いくら実家が裕福だからと言ってそれにいつも甘えるわけにはいかない。あの時の装飾品はそれなりに豪華なものだったし、それをまた身につければよいだけの事だ。
「あのね、ハヌル。装飾品は以前のもので大丈夫だからね」
「いいえ。皇太后さま主催の宴への出席を一度は断っているのです。お顔を覚えてもらうためにも今回の出席は大きな意味がある者ですから、それなりに着飾らないと」
 チェギョンは今日の茶菓に席にやってきた東の皇太后の顔を思い浮かべる。彼女は自分の事を知っていた。西の皇太后の事は知らないけれど、今日の状態のまま明日の宴に出席するのはひどく気が重い。
「宴の準備もありますので、明日の座学はお休みになると女官長より通達も出ております」
 勉強が無くなったと聞いてパッとその表情が明るくなる。
「ちょうど絵師のガンヒョン様より姿絵の件についてお部屋においでになりたいと申し出もありますので、早めに支度を整えておきましょう」
 再びチェギョンの表情ががっかりしたものになる。
 あまりにわかりやすい感情の表れにハヌルは笑みを浮かべた。
「それでは、寝台の支度も終わっておりますのでお休みください」
 チェギョンはもそもそと立ち上がると、無言のまま寝台の布団にもぐりこんだ。


 チェギョンの部屋を退出したハヌルは、自分の部屋がある女官用の長屋へと戻ってきた。
 この長屋は今回のお妃候補に仕える女官専用のものだった。普通の女官はよほど出世しない限りは2~3人で一部屋を使うのが常だが、王の御代で一代限りの妃選びのためということもあり、ここの女官は一人一部屋が与えられていた。
 すでに仕事を終えてのんびりしている女官もいれば、まだ戻ってきていない女官もいる。
 ハヌルは自室に戻ると自分のために茶を入れて一息ついた。
 そして、夕方の事を思い出して眉をひそめた。



 チェギョンが茶会からいなくなった事に関してはおおよその理由がわかっている。
 自らを〈猫の世話係〉とチェギョンに名乗った王女…ヘミョンが後宮に姿を見せたのは、チェギョンに小言を言ったその後だった。
 それなりにへこんでいるようだったのでお茶と菓子を部屋に運んできたところだった。
「まあ〈猫の世話係〉様」
 ハヌルの前に姿を見せたヘミョンに向かってわざとそう呼べば、ヘミョンは小さく口を尖らせた。
「だって、そう名乗るしかないじゃない」
 いくら女官の格好をしているとはいえ、ヘミョンの顔を知っている者も数人はいるのだ。ハヌルはヘミョンを自室へと案内した。
「東の皇太后さまがチェギョンに会いに行ったそうよ。何を話したのかはわからないけど、彼女になにやら詰め寄っていたみたい。なにか本人から聞いている?」
「いえ、チェギョン様は庭の花をもっと眺めたくなりその場を離れた…と」
「ふーん…。念のために聞くけど」
「もちろん、そんな理由信じてはおりません。東の皇太后さまに会ったことが原因なのは間違いないでしょう」
「私が思うに、王が気に入っているというチェギョンを確かめたかったのだと思うわ。そしてあれこれ聞いたのじゃないかしら。皇太后として…ね。彼女、王のためなら鬼にでもなれるから」
「ええ、そうですわね」
「で…チェギョンはまだお妃になる気はないと?」
「以前のように口に出すことは無くなりましたが、気持ちは変わってはいないようですね」
「お妃候補が妃にも側室にも選ばれなかった場合、女官として王宮に留まるか、実家に帰るか、それ以外の身の振り方については知ってるのかしらね」
「いいえ、ご存じないかと」
「そう。さすがにそこまでは女官長もまだ知らせてないわね…」
「ヘミョン様」
 ハヌルの口から自分の名が飛び出したことで、ヘミョンは人差し指を唇に当てて言った。
「ここでの私は〈猫の世話係〉」
「…猫の世話係様。何を企んでおいでなのです?」
「企むだなんて人聞きの悪い。東の皇太后さまがチェギョンを妃にしたくないと思っているのなら、当然、あれこれ仕掛けてくるでしょう。妃候補同士での諍いは後宮を追い出されるしきたりだけど、生母が妃候補をどうしようと関係ないものね。私、チェギョンの事が好きなの。妹のように思っているのよ。だって、たった一人の弟は外宮に住んでいてなかなか会えないし、せっかく王宮にきても王の命令であちこち動き回っていてお母様の元に挨拶にも来れないくらい」
 ヘミョンが企んでいることがなんとなくわかったような気がしてハヌルの目が細くなる。
「王太弟様は王陛下の良き片腕となり国政を担っているようですね。王陛下の妃選びが終わった後で王太弟様も妃を娶らねばならないでしょうが…。まさかと思いますが」
「東の皇太后さまはチェギョンを王の妃にはしたくないと思っている。チェギョンは王の妃にはなりたくないと思っている。これって、東の皇太后さまがとやかく言わなくたって何とかなりそうじゃない?なのに、どうしてチェギョンの前に姿を現したのかしら?」
 ヘミョンは自分が望んでいることを口には出さない。が…。
「お父様は第一位の妃を置かなかった。東の皇太后様と私のお母様を同位の妃として扱い…。王と王太弟はわずか三日違いで生まれた。先に生まれたものが王位継承権第一位となるはずだったのに、お父様は弟を王太子にしようとした。それは何故?そして、あれだけお元気そうだったお父様が病に倒れなくなってしまったのは何故?」
「私は後悔しています。あなた様にあの事件の事を話したことを」
「聞きたいとせがんだのは私。あなたは悪くない」
「しかし…」
「代々王宮に仕える家系に生まれたあなたが、お母様に仕えることになり、今はチェギョンに仕えている、ということはそういうことなのでしょう?あなたはチェギョンが王宮にとって必要な人間だと理解している…」
 ハヌルはぐっと唇をかみしめた。
「先々代の御代にもあなたと同じ名前の女官がいたと…お父様から聞いたことがある。王宮に仕える人物には同じ名前を付けることがあなたの家のしきたりなんですって?」
「王女様…」
 先ほど咎められたのだが、ハヌルはあえてヘミョンをそう呼んだ。
 ヘミョンはにやりと笑いを浮かべ…。
「チェギョンをよろしくね。お母様も気にかけていたから」
 ヘミョンは踵を返し部屋を出て行った。
 その後で妃候補付き女官たちに、明日皇太后主催の宴が開かれることになった…と、知らせが回ってきたのだった。



「ヘミョン様は少しだけ勘違いしていらっしゃる。私の家系は確かに代々王宮に仕えるもの。でもそれはたまたま〈そこ〉が王宮であっただけ…」
 ハヌルはそう呟き、チェギョンの笑顔を思い浮かべるとほっと一息ついた…。



 翌朝。
 後宮中がバタバタしている…ような感じがする。
 後宮の一番奥に位置するチェギョンの部屋にもその気配が伝わって来るくらいだから相当だろう。なぜバタバタしているのか、その理由は明らかだ。
 今夜開かれる皇太后主催の花見の宴である。
 皆、朝から準備に余念がない…らしい。
 チェギョンは、と言えば。ハヌルにいつもより早くたたき起こされ、朝っぱらから浴室へ放り込まれてしまった。髪を洗い、体の隅々まで下女に磨き上げられた。その後で慌ただしく朝食を食べ、ハヌルが用意した、それまでチェギョンが見たこともない豪華な衣装に袖を通し、薄化粧を施され現在に至る。
 間もなく昼食だが、花見の宴で普段通りの食事は腹に入らないだろうというハヌルの言葉から、昼ではなくおやつの時間にそれなりの食事をしようと思っていた。
 では、今何をしているかと言えば…。

「チェギョン様、もう少し右に顔を向けてください」
 絵師ガンヒョンのキツメの声が部屋に響く。その指示通りチェギョンは顔だけを右に逸らす。
 ガンヒョンの絵筆を動かす音だけが部屋の中に響いていた。それまでの墨一色で描かれた何枚かの下絵があたりに散らばっていて、それと今目の前にいる着飾ったチェギョンを見ながら絵の具を使って慎重に姿絵が描かれていた。
 それまで、チェギョンは住んでいた地方の街で年に一度開かれる祭りにやってくる似顔絵師に顔だけは描いてもらったことがある。しかしそれは即興で書き上げるものであるため、線は雑で顔だけの何ともぼんやりしたものだった。
ガンヒョンが今描いているのは、大きな紙にチェギョンの全身が描かれる物だった。しかもとても繊細に描かれているらしく、ちらりと見ただけでチェギョンは他人から自分の姿がそう見えているのかと感心し切りだった。
ガンヒョンの手がせわしなく絵具皿の上を行き来する。何本もの筆が入れ代わり立ち代わり紙に色を乗せていく様は見ていて飽きない。覗き込み過ぎてついつい前のめりになりすぎるとガンヒョンから先ほどのように指示が飛んでくるのだ。
 やがて、ガンヒョンは静かに筆を置いた。
「ふむ…」
 自分の描いた絵姿とチェギョンを見比べ、ガンヒョンは小さくため息を一つ。
「まあ…こんなものでしょう」
 そう小さくつぶやいて、チェギョンにもよく見えるように紙を持ち上げた。
「いかがですか?」
 チェギョンは自分の絵姿をまじまじと見ると感動で頬をほんのり染め上げ、拍手をした。
「すごい!私じゃないみたい。まるで王女様みたいだわ」
「いえ、これは紛れもなくチェギョン様ですよ」
 ガンヒョンがあきれたように沿う言葉を返すと、チェギョンはふわりとほほ笑んだ。
「これが後宮に飾られることになるの?」
「うーん、そうですね。これは初めて色を入れて描いたものですし。これをもとにきちんとしたものを描きたいと思っています」
「え?こんなに上手に描けているのに、これも本番用じゃないってこと?」
「たった半日で描いたんです。まだ線にも雑さが残っているし…。それに…」
「それに?」
 ガンヒョンは意味ありげににんまりと笑みを浮かべた。
「今夜の宴は何が起こるかわかりませんし、その後のチェギョン様を描いてみるのも良いかも」
「何か起こるって…」
 ぽかんとした表情のチェギョン。ガンヒョンは何もわかっていない様子のチェギョンに小さく頷きながら、たった今描き上げた絵姿をくるくると筒状に丸めた。
「私としては色々進展がある宴だと思いますよ。というか。この後宮にいる他のお妃候補の皆様やお付きの女官の方々、みんながそう思っているかと」
 顔合わせの儀の夜に開かれた宴依頼の、大掛かりの宴なのは間違いない。しかも、初対面だったあの時とは違って、ずいぶんみんなこの後宮に馴染んでいる。王との茶会でそれなりに距離は縮まっている。
「王陛下は他の妃候補の皆さんとも交流を深めていらっしゃるし、毛並みの違った私の事は忘れてもらえると嬉しいのだけれどね」
 チェギョンは椅子に座りながら足をぶらぶらさせ、衣裳がふわりと跳ね上がるのをぼんやりと見つめながらつぶやいた。
「それでは、また後日寄らせていただきますね」
 絵の道具を片づけ終えたガンヒョンはぺこりと一礼して部屋を出ていった。
 入れ替わりにハヌルが食事を運んで来る。
「さあ、今のうちにお腹を満たしておいてください。それから」
 ハヌルの視線が部屋の隅に立てかけられているチェギョンの琴に向けられた。
「指馴らしをしておかれた方がよろしいかと」
 チェギョンの口からそれは大きなため息が漏れた。
 そう、ただの宴ではなかった。
 昨日伝えられた花見の宴。花見…というからには何か余興が必要。東の皇太后は妃候補たちに何かすることを求めてきた。楽器の演奏でも良し、歌でも良し、舞でも良し…。とにかく、参加者を楽しませて欲しい、とのことだった。
 まあ、はっきり言えば。妃候補として後宮に入るくらいの娘たちが、芸術方面に疎いわけがない、というわけだ。
 東の皇太后は詩を詠むことにたけていたし、西の皇太后が施す刺繍は芸術品としても一級品であると知られている。王や王太弟は笛が得意だったし、王女は弦を使って音を出す琴の奏者として有名だった。
「馴らしは必要ないわ。いつも通りに弾くだけだもの」
 どこか投げやりにも聞こえる言葉にハヌルの片眉が上がった。しかし、ハヌルはチェギョンに何か言おうとはしなかった。
 机の上に並べられた食事をおいしそうに頬張るチェギョンを見て笑みがこぼれる。

「やっと見つけたのですよ…」

「?何か言った?ハヌル」
「いいえ。お食事の後は宴までお休みください。さすがに居眠りはできませんからね」
「居眠りなんてしないわよ」
 ハヌルは柔らかな笑みを浮かべてチェギョンを見つめている。チェギョンはいつも通り、出された食事全部を平らげ、満足そうだ。
 その後、チェギョンは一旦衣装を脱いで楽な格好に戻ると、布団にもぐりこむ。病気でもないのに明るいうちから布団に入るなど、子供の時以来だ。
 お腹もいっぱい、暖かな布団。
 チェギョンはすぐに睡魔に襲われ、そのままハヌルが起こしに来るまでぐっすりと眠った。
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少しずつ * by yurin
おはようございます^^v

少しずつ――
込み入った事情が分かってきましたv-222
どうやらチェギョンは「王」と「王太弟」とふたりに出会っているようですねv-221

東の皇太后、西の皇太后、それにヘミョン王女
それぞれが今回の妃選びの動向を注視し、そんな中ハヌルが動いている
最後のハヌルの言葉がキーワードですねv-218
お話の続き楽しみにしてますね
いつもお話ありがとうございましたv-354

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2020-02-07 (Fri)

【夏宵奇譚】第3章

【夏宵奇譚】第3章

【第3章 皇太后】「ずいぶんご機嫌ですね」 内官ドンソクが硯で墨をすりながら言う。 彼の目の前の立派な執務机に座っている王は、誰が見ても上機嫌である。「まあな」「それはようございました」 ドンソクが硯を恭しく持ち上げ執務机の上に置く。机の中央には王の署名と玉印を必要とする決裁書類が山のように積まれているのだが、それは何も今日に限ったことではない。 御前会議で話し合われた決裁事項を文官が文書にしたた...

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【第3章 皇太后】

「ずいぶんご機嫌ですね」
 内官ドンソクが硯で墨をすりながら言う。
 彼の目の前の立派な執務机に座っている王は、誰が見ても上機嫌である。
「まあな」
「それはようございました」
 ドンソクが硯を恭しく持ち上げ執務机の上に置く。机の中央には王の署名と玉印を必要とする決裁書類が山のように積まれているのだが、それは何も今日に限ったことではない。
 御前会議で話し合われた決裁事項を文官が文書にしたため、王はその内容に目を通し間違いがないことを確認して決済する。
 若くしてその位に就いた王はかなり行動的だった。それまでの王のほとんどがそうしてきたように、大臣や主要な役職を持つ者からの報告を玉座でただ聞いているだけ…ではなく、本当にその報告通りなのか自ら見分して歩くということを行っているのだ。
 もちろん、それを良く思わない臣下がいるのも事実で、王はうまくそれらを捌くため公に見て回るもの、その身分を隠しお忍びで見て回るものを自分の中で決めて行動していた。
 内官の長であるコン内官が主に公の部分を、ドンソクがお忍び部分を担当している。なので、物腰柔らかそうに見えるドンソクだが、頭が切れるだけでなく県の腕もそれなり文武両道の若者でもあった。しかし、流石に彼一人というのも心もとない。今一人、お忍びには協力者がいるのだが…。
「本日は王都へ向かわれる日ではございませんよね」
「ああ、今日は茶会の日だ」
 「おや」と、ドンソクは目を細めた。
 妃候補の一人、チェギョンの部屋まで足を運んだにもかかわらず、会うことが出来なかったその次の茶会に、とうとう彼女が顔を出したのは二週間ほど前の事。
 しかし、せっかく茶会へチェギョンが参加したというのに、他の妃候補たちが王の周りにまとわりついて、茶会の間中、ろくに話もできていない。
 それでも、王にとっては癒しのひと時となるようだった。
 特に美しいわけでもない、他の妃候補たちのように自分を推してくるわけでもない。最初の顔合わせの儀では怯えた様子であったが、茶会の席では落ち着いているように見えた。
 女官長スヨンの報告では、妃教育の成績も特に悪くはない。何より王が気に入っているのだ。後見がないというのがチェギョンの弱いところでもあるが、妃の位は第5位まである。そのどれかに収まり世継ぎの王子を産むことが出来れば第1位の正妃となる事も可能なのだ。
 とにかく、この若い王はこの国を良い国となるよう導ける統治者であることは間違いない。隣国ともうまく渡り合えるだろうし、内乱も起こるはずがない…とドンソクは思う。
「今日は日差しも暖かく風もあまりないようですから、良い茶会となるでしょうね」
「ああ、そうだな」
 上機嫌の王は柔らかな笑みを浮かべ頷いた。



 後宮では本日もお妃教育の真っただ中である。
 王宮内で必要とされる専門用語はすでに履修を終え、現在は祭事など、一年を通して王宮で催される儀式を学んでいた。
 王都に暮らし、父親が大臣など要職についている者たちにとっては今更な内容だが、チェギョンのように地方から出てきたものや王宮に関わることなく暮らしてきた者にとっては覚えておかねばならない大事な内容でもあった。
 後宮に来て2か月。
 妃候補として入宮した彼女たちは互いを牽制しあってはいるが、今のところ表立って何か争いごとがあるとか、そういうことは…まだない。
 最初、妃候補の誰もが自分こそ妃にふさわしいと、何かかしらの争いごとでも起きるのではないかと思っていたのだが。
 妃候補としての勉強初日、最初の座学で女官長が20名の妃候補に対して行った内容が〈それ〉だった。

――立后の儀までの間に諍いがあった場合、疑わしき者すべてが妃候補を外され後宮を追い出される。
――追い出されたのちは、いかなる理由があろうとも、その身は王宮の門をくぐることを許されない。

 つまり、妃候補の間で喧嘩でも企みごとでも、何か諍いごとが起きれば、犯人は見つからずとも疑わしいというだけで後宮を…王宮を追われることになる。見つからねば良いという考えも持ち合わせるわけにはいかない。
 女官長は無表情のまま冷たく言い放ったのだ。

「皆様は妃候補にすぎません。私の教えを乞う生徒です。他人を出し抜こうなどという醜い心を持つ者は国母にはおろか妃にもなる資格はありません。王陛下も私と同じ考えでいらっしゃいます」

 それ故に。さりげない嫌味は有れど、何かを仕掛けられるということもなく。チェギョンは末席で今日も講義を受けていた。
 お茶会も…いやいやながら参加するようになったが、他の妃候補たちが王をうまく誘い出してくれ、顔合わせの儀の時のように直接チェギョンに声をかけてくることもなかった。
 そうなれば、美味しいお菓子に珍しいお茶を堪能できるとあって、ここ最近は少しばかり楽しみにもなっていた。それに…ここ最近の春の陽気で、王宮の庭は春色に染まり目も楽しませてくれる。

「王陛下のお出ましでございます」
 先導役女官の声に妃候補たちは一斉に庭の入り口に目をやった。
 今日は執務が押したのかいつもの時間にかなり遅い時間だ。
 王の席は初めから整えられており、その周りにはいつもの面々がすでに陣取っていた。チェギョンは此処でも末席に腰かけ、王がやってきたと聞いても、目の前の薄紅色の花を満開に咲かせている木の枝を愛でながらお茶を口にしていた。
 だから、さすが王宮の庭だ、と呆けていたせいもあって、全く気が付かなかったのだ。
「見事に満開だこと」
 自分の横から不意に声が聞こえた。
 驚いてそちらを見ると、上等な絹の衣装に一目で高価だと分かる簪や首飾りを身に着けた美しい女性がいた。
 王のお出ましに他の妃候補たちはそちらに夢中で、今ここにいるこの女性には誰も気づいていないようだった。
 その女性はニコリと笑顔を見せると、チェギョンの袖にそっと手を添えて立ち上がった。まるで「こちらに来なさい」と誘導されているように思え、チェギョンもなるべく周りに気取られないようにそっと立ち上がる。
 そのまま今まで眺めていた木の陰に誘われるように歩いていくと、先に女性がぺたりとその場に座り込み、自分の横をぽんぽんと叩いて見せた。「ここに座れ」と言っているのだ。チェギョンはそう理解して同じように座り込んだ。
 背の低い庭木が張り巡らされていて、王をはじめとする妃候補たちがいるお茶会の席からはちょうど見えない位置だ。
 妃候補たちのはしゃぐ声が聞こえる。ここにチェギョンとこの女性がいることはわからないだろう。
 チェギョンはこの女性は初めから自分に接触するためにこの場にやってきたのだろうと思った。他人から見られることなく話がしたいがために、普段の茶会でチェギョンがどこに座っているのか、それも全て調べた上でやってきたのだ。
 しかし、チェギョンはこの女性には見覚えがない。
 上等な衣装を着ていることから女官でないことは確かだ。この王宮で女官より身分が高い女性というのは、今は離宮に住まう皇太后か皇女だけだ。皇女は王より二つ年上と聞いている。目の前の女性はそれよりはいくらか歳が上に見える。ならば皇太后しかない。しかし、東と西、どちらの皇太后だろうか。
 チェギョンが考えているのが分かったのか、女性は笑顔のままそっとチェギョンの手を握り締めてきた。その笑顔があまりに美しく柔らかいもので、チェギョンも思わず笑顔を返したのだが、次の瞬間、女性は無表情になった。
「そなた…何を企んで居る」
「え?」
 急に何か企んでいるのかと聞かれても心当たりなどない。
「顔合わせの儀ではどのようにして王の心をつかんだのです。なぜその後の宴に顔を出さなかったのです。しばらく参加することのなかった茶会に参加する気になったのはなぜです。王が同席しているのになぜ一人花を愛でているのです」
 矢継ぎ早にいくつもの「なぜ」を連発されてチェギョンは軽く混乱していた。
 握りしめられている手が痛みを訴えている。女性の力がじわりと強くなっている。これほどまでに王の妃に対して警戒心を露わにするということは、目の前のこの女性は…。
「東の皇太后さま…?」
 怯えるチェギョンがかすれた声をようやく絞り出して女性の名を呼んだ。東の皇太后は王の生母だ。
「私の質問に答えなさい。後宮に来たくせになぜ妃になりたくないと…?」
 なぜ東の皇太后がチェギョンの事を知っているのだ。一瞬ハヌルの顔が頭をよぎったが、彼女は西の皇太后の…。
「そなた…もしや西の皇太后が送り込んだ者…?」
 チェギョンは東の皇太后の手の力が一瞬緩んだすきを逃さず、急いで自分の手を引いた。
「私は…妃になるために…妃になりたくて…この後宮に来たのではありません。妃選びなどという馬鹿げたしきたりのせいで、無理やりくじ引きでその役を押し付けられただけ…」
「馬鹿げた…ですって?」
 先ほどまでの穏やかで美しい女性の影はない。王の生母たる気高い皇太后…。
 馬鹿げたなどと口にしてしまい、流石にそれはまずい発言だったと俯いたが、そのチェギョンの顎に手をかけ、東の皇太后はグイっと自分の方を向かせた。
「妃選びは王の言葉が絶対です。母である私がどんな娘を選ぶよう口添えをしても、王がそなたを選ぶと宣言すればそれは絶対です。そなたが言う〈馬鹿げた〉しきたりとはそういうことです」
 チェギョンの背に嫌な汗が流れた。
 東の皇太后はゆっくりと立ち上がると、チェギョンには目もくれず立ち去って行った。
 先ほどまで美しい花を愛で美味しいお茶とお菓子を食していた幸せな心地はとうに消え失せていた。
 しきたり。
 しきたり。
 しきたり。
 この王宮は沢山のしきたりで埋め尽くされている。
 一旦、妃候補として後宮に入った以上、自らの意志で出て行くことが出来ないのもしきたり。
 チェギョンは目立たぬよう、ひっそりと半年が過ぎるのを待つだけでよかったのに。
 あの時、顔合わせの儀の時。緊張で自分が名乗る番だと気づかなかった、ただそれだけがあの王の気を引く行為だったのだろうか?
 チェギョンの中で、言いようのしれない不安が渦巻く。
 木の陰からそっと茶会の席を覗き込んだ。
 どうやら王を中心に話がはずんでいる。
 そっと立ち上がり、音をたてないようにして、チェギョンもまた茶会の席を…逃げ出した。


 逃げ出したチェギョンはまっすぐ自分の部屋へは戻らなかった。
 離宮のとの境にある竹林の奥の…大きな岩がある場所。
 後宮にやってきた初日にここを見つけてから、この場所はチェギョンにとっての逃げ場所になっていた。
 大きな岩に体を伏せ、弾む息を整える。
 しばらくして、落ち着いた息を大きく吸い込むとゆっくりと顔を上げた。
「…!」
 いつの間にいたのか。人の気配などなかったはずだ。
 大きな岩の少し離れたその場所に、あの内官が体を寄りかけ立っていた。
 この場所を初めて見つけた時に出会った若い内官。咄嗟に楽団の一員だと嘘をついたが、その後、再びここで出会った時にその嘘はとうにばれていた。妃候補が着る衣装を見れば一目瞭然。内官はチェギョンの名すらすでに知っていた。自分の名が知られていて内官の名前を知らないのは不公平だと訴えたら彼はしぶしぶその名を教えてくれた。
「相変わらず、気配を消すのがうまいのね。シン」
「誉め言葉ととっておこう」
「誉めてないわ、責めてるのよ。」
「ひどいな」
 チェギョンの事を妃候補だと知っても、この内官は口調を改めるようなことはしなかった。それがひどく安心できるもので、チェギョンはシンと名乗ったこの内官に心を開いていた。
「まだ茶会の時間だろ?どうしてここに?」
 そう問われて、チェギョンは言うかどうか迷ったが…。
「東の皇太后さまに会ったの」
 シンの目が鋭く光った…ような気がした。
「多分、私にこっそり会うために顔を出されたのだと思うわ。ほら…私、顔合わせの儀の夜に開かれた宴にも出ていないし、皇太后さまはじめもう一人の皇子様や皇女様に顔を知られていないじゃない?どんな娘か気になってたようで…」
「そうか」
「私以外の誰か…もっとお妃にふさわしい人はいるはずなのに…なんで私なんだろう?」
「なんでだろうな」 
「ハヌルもガンヒョンも、私が妃になって世継ぎを産めばそんなこと気にしなくても良い、一生安泰だ、なんて言うけど」
「それはそうだろ?君は今、王の妃候補として後宮に入っているんだ」
「でも!それは、私の住んでいた地方は誰もお妃になりただなんて…ううん、お妃に憧れていたとしても、王陛下の目に留まったとしても、運よく妃に選ばれたとしても、後見を持たない田舎娘がどんな扱いを受けるのか、その末路は容易に想像できるわ。だから、誰も後宮に行きたいと声を上げなかった。くじ引きの場でハズレくじを引き当てた彼女たちは皆大喜びだった」
「王がその場に居なくて良かったな。さすがに自分の妃になりたくない娘たちが後宮に行かなくて良かったと喜ぶ場面はさすがに衝撃を受けただろうから」
「…」
 ぽんぽんとリズムよく、チェギョンの言うことに相槌を打っていたシンの言葉にチェギョンは黙ってしまった。自分の事ばかり考えていたのではないかと思い、王の気持ちを置いてけぼりにしてしまったような感じがして、そしてそれをシンに指摘されたような気がして心苦しくなってしまった。
それまで話していたチェギョンが急に黙ってしまったので、シンの方は何かおかしなことでも返しただろうかと思わずチェギョンの顔を覗きこんだ。
 確かめなくても落ち込んでいるのがわかる表情だった。
「王陛下は特別な方だっていうのは理解してる。ハヌルやガンヒョンの言う通りその血を後世に繋いでいくために複数人のお妃さまが必要なことだって理解したわ。でもね…」
 チェギョンはついっと顎を上げる。
「互いに互いだけを必要とする結婚を、ここで、この後宮で、望むのは我儘なのかなぁ…」
「お前…」
 シンは「後宮に入った以上、それを望むのはおろかなことだ」と言おうとして口をつぐんだ。
 ただ一人を愛し愛されたいという、目の前の娘の、自分の想いを自分で我儘な事なのかというその顔に浮かんだ笑みが、あまりにも寂しくて…。

 風が吹く。
 竹の葉がカサカサとこすれ合う音だけがその場に聞こえていた。
 


 離宮は後宮で与えられていた殿閣の半分くらいの広さだった。
 王が崩御し、葬祭の儀式がすべて終わると、それまで後宮に殿閣や部屋を与えられていた妃又は側室たちは七日の内にそこを去らねばならないしきたりだった。
 帰るべき実家がある者は後宮を出ることを許されるのだが、その王の御代が長引き後宮で過ごした時間が長い者ほど若さを失い、頼れる実家にも帰れず…結果、後宮に女官として残ることになる。
しかし、特別に王宮に留まることを許される者がいる。
 それが、次代の王の母と…王位継承権を有する王子や王女の母である妃。
 つまり、現在の王の御代では東の皇太后と西の皇太后である。
 妃や側室の数ほど御子の母は居ないので、必然と離宮の範囲は狭くなり、それに比例して居をなす殿閣の広さも狭くなるのだ。
 先代の王は二人の皇太后に順位を付けなかったが、崩御し東の皇太后が生んだ王子が王位を継いだことで今では順位がついてしまっている。
 この国で東は太陽が昇る方角であることから西より上位となる。すなわち、東の皇太后が離宮の実質的な支配者であるのだ。
 その東の皇太后が現在後宮に集められた妃候補の娘たちに目を光らせているのは誰が見ても明らかな事だった。そして、その中の誰を第一位の妃に選ばせようとしているのかも。
 
「それで…あの子は姿を消してしまった…と」
 質素だが上質の絹で作られた衣装がさらりと揺れた。
 西の皇太后の腕の中には白い猫…ソラが抱かれている。
「東の皇太后はどんな圧力をかけたのかしらね…」
 西の皇太后に頭を撫でられたソラが気持ちよさそうに目を細める。
「あのお方はお父様がご自分をお母様と同列に扱ったことをまだ引きずっていらっしゃるみたいね。王陛下の生母であるという東の名を頂いても」
 西の皇太后の正面の席に座っている若い女性がにっこりと笑みを浮かべて言った。笑みを浮かべているにもかかわらず、先ほどからこの二人の間で交わされる言葉はかなり物騒な内容だ。
 万が一にでも東の皇太后付きの女官に聞かれでもしたら大事になる。
 部屋の隅に控える西の皇太后付きの女官はハラハラしながら二人の会話に耳を傾けていた。
「あなたにはまだわからないのかも…。いいえ、生まれながらにして王女のあなたには理解しがたい感情なのかもしれない。私には妃になりたくないと言ったあの子の気持ちが少しだけどわかる気がするわ」
「お母様はお父様を愛してらしたの?」
「そうね」
「あのお方とお母様を同列に置いたお父様の意図が私にはいまだに理解できないわ。どうしたって、王の生母たるものが位は上になるのだから」
「私にも先王の御心は理解しきれなかったから」
「お母様…」
 不意にソラが西の皇太后の腕からすり抜ける。そしてそのまま向かいに座っている女性の膝の上にぴょんと飛び乗って体を丸めた。
「ところで王太弟の妃候補はどなたかいらっしゃって?」
「いいえ、今はまだ何も考えていないわ。まずは王陛下の妃選びが優先されることでもあるし。それに、王太弟となったわが子は王陛下と仲良くしているし、正式に妃が決まり世継ぎの王子が生まれればその位も返還することになる。そうすれば王弟として今よりは過ごしやすくなるでしょう」
「本気でそうお思いなのですか?私はむしろ危惧しているのです。王太弟の位を返還しても、お父様の血を受け継ぐ直系の王子であることに変わりはありません。万が一にでも、王陛下の妃のだれ一人子をなすことがないのであれば、再び王太弟の位をいただき、その血筋はこちら側のものとなる。それをあのお方が無視するとは思えません」
「ええ、ええ。私もそれは危惧するところです。しかし、今は王陛下の妃を決めねばならない時期。そこで何か手を下すようであれば、真っ先に東の皇太后が疑われてしかるべきです。それこそ、本当の不慮の事故であったとしても、私は王太弟の生母として東の皇太后を弾劾するでしょう」
「皇太后さま…!」
 部屋の隅に控えていた女官が声を上げた。
 二人はハッと口をつぐむ。
 人払いをしていた部屋に向かって足音が近づいてくる。その足音はこの殿閣に仕える女官のものではない。
「先触れにございます」
 扉の前で止まった足音の持ち主の声が聞こえる。
「間もなくこちらに東の皇太后さまがいらっしゃいます」
「わかりました」
 控えていた女官が応対する。
 西の皇太后は席を立ち、東の皇太后を出迎える準備をする。
「あなたはどうするの?東の皇太后と同席する?」
「いいえ、私は自分の部屋に退がらせていただきますわ。ソラと遊んであげなくては…ねえ?」
 ソラが小さく鳴いた。
「なら早くお退がりなさい」
「はい、お母様」
「あ…ヘミョン」
 立ち去ろうとした女性…ヘミョンを西の皇太后が呼び止めた。
「ハヌルに連絡を取って、あの子が無事に戻ってきたかどうか聞いておいてくれるかしら?」
「もちろんです、お母様」
 ヘミョンは先ぶれの女官が控えているのとは反対にある扉から部屋を出て行った。

 自分の部屋に戻ったヘミョンはソラを床に下ろすと急いで衣装を着替える。
 幼いころから自分に仕えてくれている女官が木綿の少しばかりくたびれた衣装を持ってきた。
 女官の服である。
「王女様、後宮へ?」
「ええ、ハヌルと少し話をしてくるわ」
「かしこまりました。お気をつけてお出かけください」
「お母様もとに東の皇太后がくるの。私がいない間、お母様をよろしくね」
「はい、そちらの件もかしこまりました」
 着替えを済ませたヘミョンは王女の簪をすべて抜き取り、手早く髪をまとめ上げる。
 鏡に映った自分の格好を確認すると、唇をグイっと布で拭った。
 ただの女官が紅を唇にのせているなどありえないからだ。
 そうして準備を終えると裏の扉からヘミョンは部屋を抜け出した。

2020-01-06 (Mon)

【夏宵奇譚】第2章

【夏宵奇譚】第2章

【第2章 出会い】 本殿から遠く離れているはずのこの部屋に、楽の音が聞こえてくる。 後宮と離宮の境目…。 あの時の内官がそう言っていたことは本当だったのだ。 チェギョンはぼんやりとそんなことを考えていた。 顔合わせの儀は無事に…終わったのかどうかチェギョン本人は首をかしげたくなるが、とにかく、後宮の行事は滞りなく進んでいるらしい。 今夜は東と西の皇太后が主催する宴が離宮で開かれている。 王に妃候補た...

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【第2章 出会い】

 本殿から遠く離れているはずのこの部屋に、楽の音が聞こえてくる。
 後宮と離宮の境目…。
 あの時の内官がそう言っていたことは本当だったのだ。
 チェギョンはぼんやりとそんなことを考えていた。
 顔合わせの儀は無事に…終わったのかどうかチェギョン本人は首をかしげたくなるが、とにかく、後宮の行事は滞りなく進んでいるらしい。
 今夜は東と西の皇太后が主催する宴が離宮で開かれている。
 王に妃候補たちはもちろん、顔合わせの儀に参加していた大臣たちはもちろん、外宮にいるというもう一人の王子に姫君たちと言った王族が多数参加しての盛大なものだ。
 チェギョンは…体調がすぐれないということでこうして部屋に籠っていた。

 顔合わせの儀で、直接王に声をかけられた結果。チェギョンは無名の妃候補から一気に最有力妃候補に躍り出て…しまった。何の後ろ盾もないただの妃候補に、他の妃候補はもちろん、大臣たちの視線が痛いくらいに突き刺さり、立っているのがやっとの状態だった。
 すぐにでも休みたいところだったが、儀式の後、妃候補たちの前に彼女たちと同じ人数の絵師がぞろぞろとやってきた。
 そういえばハヌルが言っていた。絵姿がどうとか…などとぼんやりとチェギョンは思っていると、スッと一人の女性絵師が目の前に立った。
「初めまして。ガンヒョンと申します。お嬢様のそのお姿をぜひとも描かせていただきたく…」
「へ?」
 ガンヒョンと名乗ったその絵師は、チェギョンと同じくらいの年齢に見えた。
 周りを見渡すと、それぞれの妃候補の元にそれぞれ一名の絵師が立っている。
「私たちは国中から選ばれた絵師にございます。王命により、お妃さまが決まる立后の儀の際に使用される皆さまの絵姿を描かせていただくのです。基本は絵師がお嬢様たちを選んでよい…とはなっていますが…」
 ガンヒョンはちらりとある一角を睨みつけるように見つめた。
「すでに王宮に出入りを許されている絵師たちは、あのようにご実家がそれなりでお妃に選ばれるであろうお嬢様たちにすでに狙いを定めていたのですよ」
 なるほど。
 王宮御用達の看板は音楽にしろ、絵画にしろ、食にしろ、衣にしろ…とにかく喉から手が出るほどに欲しい称号であるのは間違いなかった。
 その看板があるだけで、王宮からの仕事に対する対価はもちろんの事、普段のおのれの仕事でも地位も名誉も財産も、手にすることができるのだ。
 先ほど気まぐれで王から直接声をかけてもらったチェギョンなど、どうとでもあしらえる。自分たちの誰かが第一位の妃になるのだ…と自信たっぷりオーラが漂っているのは誰が見ても明らかな令嬢たちの元には、現在、王宮に出入りを許されている絵師たちが群がり、誰が誰を描くのか軽い言い争いさえ勃発している様子だった。
 それを内官だろうか…必死になだめすかしているのも見て取れる。
「私たちが描く絵姿は、立后の儀の一月前には完成させなければなりません。そして、それはこの広間に飾られ、妃に選ばれた暁には、それぞれに与えられた殿閣に飾られることになります。王が代替わりし、後宮の代替わりが行われると最終的には王宮の美術庫に保管されることになるのです」
 ガンヒョンはぼうっとしたチェギョンの顔をじっと見つめると、おもむろに手を取り力強く握りしめてきた。
「たかが絵姿と侮ってはなりません。お妃に選ばれる要因の大事な一つなのです。どうか、私にあなたの絵姿を…」
「私が妃に選ばれないかもしれなくても…?」
「もちろんです」
 さわやかな笑顔。
 自分と同じくらいの歳、しかも女性の絵師。安心できる。
 そう感じて、チェギョンはガンヒョンの手を握り返した。
「よろしくお願いします」
「今後の予定はお付きの女官と相談して決めていきましょう」
 お付きの女官はこの広間に入ることを許されていない。控えの間でそれぞれの妃候補たちが退出してくるのを待っているはずだ。
 チェギョンは頷くと、ガンヒョンを伴って控えの間へと向かう。それから、今後の予定を取り決め、一旦部屋に戻ることになった。

 そして、現在。
 チェギョンは、自分の部屋に戻ってきてからずっとこうしてふさぎ込んでいる。
「今夜の宴は皇太后さまたちにも自らを売り込むための場でございます。妃候補のお嬢様たちは今頃どのように過ごしているのか…想像にたやすいですわ」
 ハヌルがチェギョンの前に薬草茶を用意しながら言った。
「半年後。王宮では夏の宴が開かれます。その場で王は妃の名を読み上げるのです。その後、立后の儀が執り行われ、妃はそれぞれの殿閣へと居を落ち着けるのが習わし。先代の王は妃に序列をつけることをしませんでしたが、側室を置くこともしませんでした。ですからそれまでの後宮より少しは穏やかだったのですよ」
「少しだけ穏やかだったって…」
 チェギョンは思わず苦笑した。
 後宮の噂はどこにいても聞こえてくるものではないが、妃が二人いたこと、それぞれに皇子が生まれたことを思えば、それなりに色々あっただろうことはチェギョンにだって安易に想像ができる。
「ハヌル…。私は妃になりたくてここに来たわけじゃないの。くじ引きで不運を引き当てて、仕方なくここに来たのよ。お妃になるための勉強は面白そうだし、ここを出た後きっと役に立つ。ただ、そんな想いしか持ってないのが私なのよ」
「そうですね。妃教育はチェギョン様のこれからにとても役立つものばかりです。しっかりと励んでいただかないとなりません。さあ、そのお茶をお飲みになったらもう今夜はお休みください。明日も朝から忙しくなりますよ」
 ハヌルに世話をされ、チェギョンは寝床にもぐりこんだ。
 
 離宮の方から聞こえる音楽は楽しげなもので、チェギョンは明かりの消えた室内で目を閉じ、その音楽に自分の弾く琴の音を想い重ね、指を動かす。
 しばらくそうしていたが、いつの間にかチェギョンは眠りに落ちていた。



 妃教育はそのほとんどが、すべての候補者が一同に揃って行われる。
 学問所さながら座卓が並ぶその部屋には、今日も妃候補たちが揃っていた。
 王宮でのマナーやしきたりは勿論の事、この国の政治についても学ばねばならない。さらには書や絵画に音楽と言った芸術についても同様だ。
 そして、二日に一度、王宮内の庭園で王を交えての茶会が開かれる。これは、参加は自由で、参加しなかったからと言ってどうこうとはない。ただ、妃に選ばれるためには王に自分を知ってもらわねばならない。
 そうなればおのずと茶会の参加率は上がるというものだが…。

「今日もチェギョンは来ておらぬのか」
 東屋の椅子に腰を掛けるなり、王は居並ぶ妃候補者たちを見渡し開口一番そう言った。
 明らかに落胆した王の姿に数名の候補者たちはイラつきを隠せない。
 顔合わせの儀の夜開かれた離宮での宴の席でも、王はチェギョンの姿を探していた。
 妃選びは始まったばかりだ。王の側近たちから「初日から妃候補一人に執着するのはいかがかと思われます」と意見を述べられれば、流石に王たるものぐっとこらえねばならなかったが、こうも会えないとなると余計に気が向くというもの。
「茶会は強制ではありませんから、参加したくないというのであればそれはそれで自由でございます。咎められるものではございません」
 そう言ったのは妃候補の一人ヒョリンである。王都に店を構える商人の娘で、それなりに妃となる有力候補の一人にも挙げられていた。しかし、こちらも他の令嬢たちとは違い、王に媚びるということはしていない。
 我こそが妃となるのだと、競い合っている令嬢たちから見れば疎ましい存在であるのには違いなかったが、実家の力を見ても弾き者にするわけにもいかず…。
「あら、ヒョリンさん。それはそうですけど…さすがにこうも毎回欠席では…ねえ?」
「茶会は毎回欠席ですが、妃教育は皆勤賞ですわ、ミリさん」
 王の最も近い場所に陣取っていた令嬢ミリは持っていた扇でそっと顔を覆い隠した。もちろんその下の表情は醜くゆがませていたが…。
「ふむ…」
 王はなにやら考え込むとおもむろに立ち上がった。
「王陛下?」
 ミリが小首をかしげ、立ち上がった王の顔を見つめる。
「ならば、こちらから出向こう」
 茶会の席がざわついた。
 給仕のために居並ぶ女官も、王の側近として使える内官も慌てて準備をしようと立ち上がった。
 しかし、王はそんな彼らの動きを制すると、自分の一番のお気に入りである内官のドンソクのみを共にすることを伝え、他の者たちはこの場で茶を楽しんで欲しいと言い残しその場から立ち去ってしまった。
 残された一同はどうしたものかとざわつくことしかできない。
 王がそう言ったのであれば「後を追うな」と言っているのと同じことだ。王不在のお茶会など楽しみも何もあったものではない。
 ミリは鼻息も荒く立ち上がると「部屋に戻ります」と告げて立ち去ってしまった。
 それに続いて他の妃候補たちも次々に立ち上がりその場から退出していく。
 結局、茶会の席に残った妃候補はヒョリンただ一人。
「ヒョリン様はお戻りになられませんので?」
 自分付きの女官は殺風景になってしまった庭をぐるりと見渡した。
「あら、上等な茶菓子にお茶。誰もいない庭園を独り占めしているのよ。堪能してからにするわ」
 ヒョリンは優雅な物腰で茶碗を持ち上げ、王宮でしか煎じられることがないという珍しい茶をおいしそうに飲み干した。



 二日に一度の茶会。茶会自体は嫌いではない。王宮でしか煎じられることのない赤い色をしたお茶に、チェギョンは興味津々だった。ただ、王がもれなく同席していると聞けば不参加一択しかない。
「だって、お妃になる気はないし、他の候補者たちに睨まれるのも嫌なんだもの」
 チェギョンは椅子に座ったまま、行儀悪く足をぶらぶらさせた。
「チェギョン様!」
 とたんに目の前にいる人物が声を上げた。
 チェギョンは慌ててすました姿勢を取り戻す。
「どうしてお妃になりたくないのですか?王の寵愛を得、御子のお一人でもお産みになれば生涯安泰ですよ」
「先代の王は側室こそお選びにはならなかったけど、お妃はお二人もいらっしゃった。先々代の王に至ってはキッチリ第5位までのお妃さまを選んでおきながら側室も両手の指以上いらっしゃったって聞くわ」
 チェギョンの目の前の人物…絵師のガンヒョンは忙しく手元を動かしながら、再び姿勢が崩れかけてきたチェギョンを軽くにらみつけた。
「仕方ありません。王の最も大事な使命の一つです。その血を残さねばならないのですから」
 チェギョンは面白くなさそうに頬を膨らませると視線を脇にずらす。
「それは理解するけど…。私は」
「失礼いたします!」
 ここにきて、見たことのないひどく慌てた様子のハヌルが部屋に飛び込んできた。
 驚いたのはチェギョンだけではない。ガンヒョンもハヌルの勢いに驚き、手にしていた絵筆を思わず手元の紙の上に落としてしまった。
「あっ!!」
 手元の紙にはチェギョンの絵姿の下書きが描かれていたのだが、落ちた筆の先は口からのどの部分に落ちてしまった。
「ちょっと…ハヌルさん…」
「ガンヒョンさん、それどころではありません、こちらに王陛下がお渡りでございます」
「「えっ?」」
 チェギョンとガンヒョンの声が重なった。
「まぁ…、まだ日も高いというのに。王陛下はよほどチェギョン様をお気に入りと見える」
 にんまりとしたガンヒョンの笑みを見て、チェギョンは思わずブルリと体を震わせた。

――王が妃候補の部屋にやってくる。

 王が妃にと望むのであれば、立后の儀を前に夜を共に過ごすことが許されている。それはすなわち、チェギョンは妃としてこの後宮に縛り付けられることを意味する。
「すぐにお支度を…って!?」
 ハヌルが言うが早いか、チェギョンは開け放たれている格子の窓にはしたなくも足をかけ、そこから逃げ出そうとしているではないか。
「チェギョン様!」
「ハヌル、ごめんなさい」
 チェギョンはひょいっとそのまま向こう側に飛び降り、庭木をかき分けその奥に走り去ってしまった。
 そうこうしているうちに複数人の足音が聞こえ、部屋の前で止まった。
「チェギョン嬢、王陛下のお渡りである!」
 ここまで先導を務めてきた内官ドンソクが声を張り上げる。
 ハヌルは小さくため息をついて、部屋の戸を開いた。
「チェギョン嬢は?」
「それが…」
 歯切れの悪いハヌルに何かを察したのか。
 王がドンソクの肩に手をやり自ら部屋の中に先に足を踏み入れた。
 部屋には絵師が一人いるだけ。後は小さな椅子がぽつんと置かれていた。部屋は狭くもなく広くもなく、と言ったところだろうか。調度品は元々この部屋に備え付けられていた質素な箪笥と机…それから…。
「琴…」
 机のわきに立てかけられるようにしておかれている琴に王は目を留めた。わざわざ後宮に持ち込んだ品であることがわかる。一度その手前を聞いてみたいものだが。
 それから、絵師の前の床に広げられている紙に目をやる。
 他の妃候補もそうであるように、先ほどまでここでこの絵師に、チェギョンはおのれの絵姿を描いていてもらっていたはずだ。
 それが、まったく気配が感じられない。ということは、だ。
「逃げられたか」
 王は笑みを浮かべる。
 ガンヒョンは初めて見る王の姿に最初は恐れ多いとびくついていたが、思った以上に若く、男性にしては綺麗なその顔立ちに思わずくぎ付けになっていた。そして、ここから逃げ出したチェギョンに心の中で盛大に舌打ちをした。
(王陛下ってものすごくいい男じゃないの!この王陛下に気に入られることに何の文句があるっていうのよ!)
 王がガンヒョンの前の紙をつまみ上げた。
「ふむ…」
「あ、それはまだ下書き用でして…先ほど王陛下の突然のお渡りに驚き汚してしまいました…」
 ガンヒョンがそう言うと、王はふと目を細め柔らかな笑みを浮かべた。
「下書きとはいえ、よく描けている。チェギョンの特徴をよくとらえているな。女の絵師は珍しいが…そなたの才能は素晴らしい。引き続き頼む」
「は…はい!」
 チェギョンの絵姿を描くことになり、王の目に自分の絵が留まった。ガンヒョンは先ほど盛大な舌打ちをしたことを素直に心の中で誤り、そして小さくこぶしを握り締めた。
「不在であれば仕方がない、今日は帰る。しかし…」
 王は部屋の隅で控えるハヌルに向かって言った。
「明後日の茶会には必ず参加させよ」
「はい、王陛下」
 深々と頭を下げたハヌルの前を通り過ぎ、内官ドンソクと共に王が去って行った。
 ハヌルがゆっくりと頭を上げる。
 とたんに部屋の空気が和らいだ、ような気がした。
「ハヌルさん、チェギョン様は何でお妃になりたくないんでしょうかね?ご実家の方にどなたか好いた方でもいらして、ここに無理やり連れてこられた…わけでもないんですよね」
「ええ。今回の妃選びのためにチェギョン様の地方ではくじ引きが行われたとか」
「くじ引きですって?王の妃になれるかもしれない、そんな大事なことをくじ引きって…よほど候補者が殺到…いえ、チェギョン様のあの様子からして、あの方の地方では誰も妃になりたいと立候補する令嬢は居なかった…というわけですか」
 まじめな顔でハヌルが頷くのをみてガンヒョンは深いため息を漏らした。
「チェギョン様からの話を聞く限り。王都からかなり離れた地方でもあり、王都や近隣地方の令嬢が妃に選ばれるのは当然の事。田舎者が後宮に入るだけでも恐れ多い…と、皆様思われているようですわ。それでも、チェギョン様はずいぶん前向きに考えてこちらにいらしたご様子。妃に選ばれなければ後宮を去ることが出来る、お妃教育で得た知識があればこの先役に立つからと、そうおっしゃっていましたね」
「ははは…」
 ガンヒョンは力なく乾いた笑いをこぼす。ここ数日チェギョンと話して実感している。他の候補者たちとは違って悪く言えば自由奔放、良く言えば自分をその将来をちゃんと考えている。
 後見も何もない田舎の娘が、王の名で発布された妃選びに無理やり後宮入りした。他の妃候補者と同じ教育を半年受けて後に選ばれる可能性は平等のはず、表向きは、だ。実際、妃を選ぶのは王自身であるから裏があるわけではないが、実のところ、その妃を選ぶよう仕向けられていたとしたら。
 今回の妃選び、チェギョンに王が直接声をかけるまでは、宰相の娘ミリが最有力候補だった。
 東の妃の元に頻繁に出入りし、王とも面識があったし、本人も妃になるべく教育されてきている。国中から妃候補者が集められて行われる妃教育は、ミリにとってはすでに全て学んでいるものであるのだ。何より、王の生母である東の妃のお気に入りだ。
 となれば…例えチェギョンが王に気に入られ妃の指名を受けたとしてもその位はかなり低い位置になるのは目に見えている。それでも、側室ではなく〈妃〉になれるのであれば幸運ではないのか。
 ガンヒョンはチェギョンの考えていることが理解できず首を傾げた。
「私もチェギョン様には妃になって欲しいと思います。あの方が妃となればこの王宮にも新しい風が吹き込むことでしょう」
「そういえば、ハヌルさんって確か…」
 ガンヒョンが何かに気づいたように思いを巡らせる。それを冷ややかな眼差しで見つめるハヌル。
 ふと、二人の視線が合うと、ガンヒョンはにこりと笑って見せた。
「いえ、何でもありません。本日はもう帰りますね。チェギョン様はいつお戻りになるかわからないし。明日また来ます」
 床に広げられていた絵の道具を片付け、ガンヒョンは部屋を出て行く。
 ハヌルはガンヒョンを見送った後、戻ってきたチェギョンに出すおやつの準備のために厨房へと向かった。



 さて、部屋から逃げ出したチェギョンが向かった先は。
 竹林を抜けた先にある大きな岩がある場所だった。
 チェギョンの可動範囲で、誰にも見つからない場所と言えばここしか知らないからだ。誰にも、というのには語弊があるかもしれない。あの内官もこの場所を知っているから。
 チェギョンは岩の上に座り一息ついた。
 今日は昼間だったせいもありうまく逃げ出せたが、次に同じことがあったらどうだろうか。もし夜の訪問だったら逃げることも拒むこともできないだろう。もし、話し合いの末に拒むことが出来追たとしても、一晩を共に過ごした事実は消すことが出来ない。
「ああ、ダメよ!そんなことになったら家に帰れなくなっちゃう」
 チェギョンは自分の頭を抱え突っ伏した。
「あら、帰る必要なんてあるのかしら?」
 急に目の前で声がして慌てて顔を上げると、そこには白い猫をその腕に抱いた女性が立っていた。
 チェギョンと目が合うとにっこりとほほ笑んだ。
「え…と?」
 自分の独り言に対して、何かぞんざいな物言いで話しかけられたと思った。だから、目の前の女性は妃候補の誰かだったろうかと一瞬考えを巡らせたが、よく見れば彼女が着ているのは王宮に仕える女官の…それもかなり下っ端の衣服だった。
「あら…私ったら…」
 女性は何かに気づいたように軽く咳ばらいをすると、ハヌルがチェギョンにいつもしているように態度を改めた。
「私は離宮の女官です。西の皇太后さまがお飼いになっている、この猫のお世話係です」
 女性の腕の中で気持ちよさそうに抱かれている白い猫が大きなあくびを一つ。その可愛らしさにチェギョンの瞳が輝いた。
「まあ…なんて可愛らしい」
 その猫の頭を撫でようとチェギョンが手を伸ばしかけると、女官はすっとそれを拒否するかのように身をねじった。
「この猫は気性が難しくて、西の皇太后さまか私にしか懐いていないのです。妃候補のあなた様に怪我でも追わせてしまったら何と言われるか」
 チェギョンは自分が名乗ってもいないのに、なぜ妃候補だと分かったのかと一瞬思ったが、今着ている衣服は妃候補たち共通のものだということに気づき、名乗らずとも後宮にいるものだということがわかってしまったようだった。
 少しばかりの寂しさを感じ、俯くチェギョン。
「あ…!これ、ソラ!」
 女官の声にハッとして顔を上げると、猫は女官の腕の中から飛び出し、しなやかな仕草でちょこんとチェギョンの膝の上に飛び乗ってきた。そのまま飛び掛かられて引っかかれるかもしれないとびくついたが、猫はチェギョンの膝の上でおとなしく丸くなった。
 ゆっくりとその背中に手を伸ばし、そろりと撫でると猫は気持ちよさそうに目を細めた。
「あら…まあ…」
 女官は驚いて目を丸くしている。
 特定の人物にしか懐かないという猫が、初対面のチェギョンにすんなり懐いてしまったのだ。
「ハヌルの言った通りだわ…」
 女官がつぶやいたその一言にチェギョンは驚いて思わず立ち上がってしまった。
 猫はチェギョンの膝から滑り落ちるように地面に降り立つと「にゃあ」と可愛らしい声で鳴いて見上げてきた。
「離宮の女官とハヌルが…どうして?」
 同じ女官同士、交流があるのはわからないでもないが、今のその話しぶりだとチェギョンの事に関して互いに情報を共有しているようにも思え、何か胡散臭い雰囲気を感じ取ってしまった。
 そして、女官は自分が妃候補の誰なのか知っている。
「あなたも…私が妃になればいいと思っているの?」
「あ…そうね…」
 女官は猫を抱き上げるとニコリと笑った。
「あなたの好きにしたら良いと思うけど。私としてはここにいてくれると嬉しいかも。それじゃあ…」
 そう言って、くるりと背を向け竹林の向こうに姿を消した。
「は…?」
 あとに残されたチェギョンは今のやり取りがどうにも不思議でならなかった。猫の世話係女官という割には、その口調は女官が使うようなものではなかったような気がするし。
「王宮の女官って…不思議な人が多いの…かしら?」
 王から逃げ出して来たというのに、それに関する不安な気持ちはどこかへ行ってしまったような…感じがした。
 そういえば何となく小腹が空いているような気もする。
 チェギョンはここ数日で覚えた後宮内部の構図を頭に思い描くと、自分が来た道とは別の方向へと歩みを進めることにした。
 チェギョンに与えられた部屋は後宮でもかなり端の方で、離宮との境目にも近い。必然的に王宮へ仕える者たちが働く裏方ともいわれる場所が集中している辺りにも近い。
 木々の間からひょっこりと顔を出し辺りをうかがう。洗濯用の井戸がある場所だ。洗い物は午前の内に終わっているので今は此処には誰もいない。井戸の近くの竿に料理人用の前掛けが干されている。そこから一枚拝借して自分の体に巻き付けた。さすがに妃候補たちに与えられたこの絹の衣は目立ちすぎる。
 チェギョンはそのままずんずんと進んでいくと、今の時間は夕餉の支度で少しばかり忙しい厨房の前にたどり着いた。
「あの~、ヒスンかスニョンは居ますか?」
 すぐ近くで野菜を洗っている年配の女官に声をかけると、彼女は顎で建物の中を指示した。
「ありがとう」
 チェギョンはにっこり笑ってお礼を言うと、厨房の建物の一つに足を踏み入れた。
 その姿に気づいた、チェギョンと同じくらいの歳の女官が、顔色を変えて駆け寄ってきた。
「こんなところで何をなさってるんですか!その前掛けは一体どこで…!」
「ちょっと小腹が空いちゃって。お茶会も欠席だし、おやつの前に抜け出してきたから…」
「こちらへいらしてください!」
 その女官はチェギョンの腕をつかむと人気のない方へと向かった。
 連れてこられた部屋は食材の管理庫だった。
「スニョン!いる~?」
 チェギョンの腕を掴んでいる女官が声を上げると、奥の方から返事が聞こえ、早歩きの足音が聞こえると棚の奥からもう一人の女官が顔を出した。
「あら、ヒスン。それから…」
 チェギョン野腕をつかんでいる女官…ヒスンの隣に視線を移したスニョンは、驚きのあまりあんぐりと口を上げたまましりもちをついてしまった。
「スニョンあんた、さっきもらったお茶会の余りの干菓子、持ってる?」
「も、持ってるけど…!」
 スニョンはチェギョンをふるえる指で指した。
「そのお茶会に参加してたんじゃ…ないんですか?チェギョン様」
「お茶会は欠席されて、小腹がお空きだそうよ」
「ハヌルにお命じ下さればお持ちしましたのに」
「あ~、ごめんね。ちょっと訳ありで部屋から抜け出してきちゃったから」
 妃候補が厨房に来るだなんて聞いたことがない。
 そもそも、この二人の女官とチェギョンが出逢ったのはつい昨日の事だ。
 お付き女官のハヌルは四六時中チェギョンにつきっきりというわけではない。妃教育がない時間、他の妃候補たちはそれぞれの部屋が近いせいもあり、互いにけん制し合いながらもちょっとしたおしゃべりを楽しんだり、それなりに楽しく過ごしているらしい。
 チェギョンは後宮のはずれの部屋で、しかも地方出身というところから顔見知りの妃候補もいないし、はっきり言って自由時間は琴をつま弾く以外は暇だった。そこで、後宮とはどんな場所なのか、暇を持て余していたチェギョンは好奇心から探検を始めてしまった。
 普段使う表の場所ではなく、裏側はどうなっているのか気になったチェギョンは、庭から外へ出て小道を見つけると、それがどこへ続いているのか、建物の特徴を目印に探検しまくった。
 そして、使われていない古びた部屋の中で、どう見ても仕事をさぼっているであろう女官二人を発見した。それが今目の前にいるヒスンとスニョンである。
 妃候補の衣を見て、チェギョンがその妃候補だと知った二人は、仕事をさぼった罰を与えられるとびくびくしていたのだが、チェギョンはそれを盾に友達になる事を約束させた。
 妃になるつもりはないのだ。万が一にでも実家に帰ること叶わず、職が見つからず、苦労するのであれば、ここで得た知識をもとに女官になってみるのもいいかもしれない。ならば今から女官に気の置けない顔見知りを作っておくのも一つの手だと、チェギョンは思ったのだ。
 ヒスンにスニョンも、自分達の醜態を内緒にしてもらえるのであれば…と、チェギョンの手を取った。
 
「で、チェギョン様は王陛下から逃げてきたと、そう言う言うわけですか」
 ヒスンが三人分のお茶を用意してくれ、食料管理庫の奥まった場所で、チェギョンは上品な干菓子を口に放り込んだ。それを見てスニョンは盛大な溜息を洩らした。
「まあ、直接目の前から逃げださなかったのですから、まだ大丈夫でしょうね。目の前からにげるだなんてことしでかしたら、妃候補として後宮に来たのに何事だ!ってことになって家に帰るどころか牢屋に入れられてしまったかもしれませんよ」
「ヒスンってば相変わらず頭固いわね~。チェギョン様はなりたくって妃候補になったわけじゃないじゃない。くじ引きで後宮入りって、かなり笑える設定だけどね」
「頭が固くって悪かったわね。私、女官長様を尊敬してるのよ。今はこんな下っ端女官だけど、いずれは…」
「あ、あんたもしかして。チェギョン様が妃に選ばれたら部屋付きに指名してもらおうと思ってる?部屋付きの女官になれば水仕事はしなくていいし、うまくやれば文官や武官ともお近づきになれて幸せな結婚ができるかもしれないもんね」
「な…何言ってるのよ!チェギョン様の前で」
 ヒスンとスニョンはハッとしてチェギョンの顔色を窺った。
「う~ん、私は妃になるつもりがないからヒスンの願いを直接かなえてあげることはできないけど。他の方が妃に選ばれたら、その方の部屋付きになれるよう口をきいてあげる」
「そんな仲の良い妃候補のお友達がいらっしゃるので?」
「今は居ないわよ…」
 二人の女官はため息を一つ。
「いいですか?チェギョン様。お茶会にはきちんと出席なさってください。妃になりたくなくとも、後宮で人脈を作っておけば後々役に立つことも出てきますから!」
「そうですよ、チェギョン様」
 最後の干菓子を口に入れ、チェギョンはゆっくりとかみ砕いて飲み込むと、二人の勢いに押されて思わず頷く。
 でも、その通りだ。
 チェギョンはよくよく考えた。
「そうね、お茶会は一対一でもないし、他の妃候補の人たちとも仲良くしておいたら、後でいいことあるかもしれないしね」
 チェギョンのその楽天的な考えにスニョンはまたため息をつきそうになったが…。この天真爛漫な性格は確かに妃には不向きなのかもしれないと思い、苦笑いを浮かべた。
「さあさ、お菓子も召し上がったことですし、お部屋にお戻りください。ハヌルさんが心配しますよ」
「そうそう。ひとつお知らせしておきます。これは後宮のしきたりの一つですけど」
 スニョンの顔が意地悪くなった。
「自分が使える妃候補が後宮から脱走したら…。その女官は発覚したその場で処刑されますから」
「ええっ!それ、本当?」
「本当です。妃選びが終わった後も同じです。王にお仕えする覚悟をもってこの後宮に入ったのに逃げ出すということは、王に対して最大の裏切り。現王陛下はお優しい方ですから、今のチェギョン様の行動に対してお怒りではないと思いますが、毎回このようなことが繰り返されるのであればおそばにお仕えしている内官や大臣たちから進言され、チェギョンに様に対してそれ相応の処罰が下される可能性もあるということを覚えておいてくださいませね」
 チェギョンは後宮のしきたりだというその話を聞き身震いした。
 後宮に入ったということはそういうことなのだ。くじ引きだからとか、チェギョン側のどうでもいい言い訳は通用しない。今それを実感した。
 ならば、逃げ回っていてはだめだ。妃にならないようにうまく立ち回らねばならない。
「わかったわ、次はこんな無茶はしない。でも…時々でいいから私の相手してくれる?」
「それはもちろんです!」
 重い腰を上げたチェギョンに安堵し、なるべく見つからないようにチェギョンが部屋まで戻る道を教え、ヒスンとスニョンは自分たちの仕事に戻って行った。
 
「ただいま戻りました」
「お帰りなさいませ」
 誰もいない部屋でハヌルがじっと立ってチェギョンを待っていた。
 無表情のハヌルを見て、チェギョンはまず自分が勝手に逃げ出したことを謝った。
「謝罪すべきは王陛下です。私にではありません」
「それはそうなんだけど…。王陛下にお叱りは?」
「大丈夫でございます。しかしながら…、王陛下はチェギョン様に明後日のお茶会は必ず参加するように…と」
「あ、それね。お茶会。私も色々考えたの。ちゃんと参加するわ。妃候補としての仕事だと思えばいいもの」
 そこでチェギョンはふと猫のお世話係だという女官の事を思い出した。
「ねえ、ハヌルは離宮の女官とも親しいの?」
「まあ、そうですね。私が妃候補付きの女官となる前は西の皇太后さま付きの女官でしたから」
「じゃあ、猫のお世話係りの女官の事は?」
「猫の…でございますか」
 ハヌルは何かを思い出そうと眉をひそめて軽くうつむいた。そして、何か思い出したことがあるのか、ついっと顔を上げてチェギョンをまっすぐ見つめた。
「逃げ出したときに…竹林の向こうで会ったの。ソラっていう名の白い猫を抱いていたわ」
「世話係…と申したのですか?その女官が」
「ええ、そうよ。ハヌルから私の事を聞いてるっぽかったから…」
 ハヌルは口角を上げ、笑みを浮かべた。チェギョンはそんな彼女の表情に気づかなかった。
「その〈猫の世話係〉とは古くからの知り合いです。西の皇太后さまは妃候補のうちどなたが立后されるのか気になされている様子。後宮の情報を集めていらっしゃるのです」
「えと、王陛下のご生母様は東の皇太后さまよね。西の皇太后さまがお産みになられた皇子さまは王陛下と同じ歳で、今は外宮にお住まいのはずよね」
「ええ、その通りでございます。王陛下には妃はおろかお子様もまだいらっしゃいませんから、外宮にお住いの王子殿下が皇太弟としてその位に就いておられます」
「ふ~ん…。皇太弟か…。ま、いずれにしても私には縁も関係もないお方だというのだけはわかるわ」
 チェギョンは大きく頷きハヌルに言った。
「お妃候補の皆の名簿とか、情報になりそうなものって用意できる?」
 ハヌルは無表情のままチェギョンを見つめている。
「誰が妃に一番ふさわしいのか。どうすれば私は妃候補から外れることが出来るのか…」
「なるほど。そう来ましたか…」
 ハヌルはチェギョンには聞こえなく来の小さな声でそう呟くと「かしこまりました」と言って首を垂れる。そしてチェギョンの言いつけ通り資料をそろえてくると告げて部屋を出て行こうとして、その歩みを止める。
「チェギョン様。王陛下に選ばれ妃となり皇子をお産みになった暁には、この国最高の女性として尊敬を集めることが出来るでしょう。しかし、チェギョン様は他の妃候補の方たちと違ってそれを望んではおられない。後見がないというのもこの後宮で暮らしていくには不安だと思いますが…何より王陛下のご寵愛がチェギョン様に向けられるのであれば何も恐れるものなどないのではございませんか」
「ダメよ」
 ハヌルはチェギョンの顔を振り返った。
「どんなに王陛下から求婚されたって、私が王陛下を好きになれないのなら妃になんてなりたくないもの」
「王陛下がチェギョン様の他に妃や側室を持つことを許されているのは、ひとえにその血を絶やさないため。王と妃の間にただ一つの恋愛感情など不要なものです。恋慕の情は国をも滅ぼしかねない危険なものなのです。ですから、先代王はどちらの妃にも第一位の位を授ける事がなかった」
 ハヌルの言うことはもっともだと思う。
 チェギョンはだからこそ妃になりたくないのだ。
「わかってる。だから私は王陛下の妃にはなりたくない。おかしいことを言っているのかもしれないけど、たとえ親の言いなりで結婚することになったとしても、私はただ一人の旦那様に仕え、そんな旦那様のただ一人の妻でありたいの。そんな人に、まだであっては居ないけど。だからこそ、私は後宮で妃に選ばれるわけにはいかない」
 ハヌルはもう何も言わなかった。穏やかに息を整え、今度こそ部屋を出て行った。

 
 
楽しかったです❤ * by ひろろ
ご無沙汰しております。
こちらに来てからも楽しみにしておりました。
そのくせなかなかお邪魔する事が出来なくてm(__)m
こんな私ですが、これからもゆっくりとお付き合いよろしくお願いします。

今回もあちらこちらと癖のある人物がいっぱいで、とても楽しみです。
これから2人とどう絡んで行くのかワクワクしてます。

Re: 楽しかったです❤ * by ちはや
>ひろろさん

お話を読んでくださってありがとうございます。
やっとお話が書けるようになり、それでも前のようにハイペースでは書けないのでゆっくり更新ですが、これからもよろしくお願いします。

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2019-12-15 (Sun)

Yahoo!ブログの移行について

Yahoo!ブログの移行について

こんにちは、ちはやです。韓国ドラマ「宮」の二次小説を最初にアップさせて頂いた、Yahoo!ブログが本日を持って閉鎖になります。その関係で、一先ずアメーバブログへデータの移行処理を行いました。Yahoo!でしかアップしていない話もありますし、移行処理が無事に済んで整理が完了しましたら改めてお知らせします。因みに、移行先のアメーバブログはこのブログのひとつ前のものと同じアドレスを使用をしていますので、ご存知の方は...

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こんにちは、ちはやです。

韓国ドラマ「宮」の二次小説を最初にアップさせて頂いた、Yahoo!ブログが本日を持って閉鎖になります。

その関係で、一先ずアメーバブログへデータの移行処理を行いました。

Yahoo!でしかアップしていない話もありますし、移行処理が無事に済んで整理が完了しましたら改めてお知らせします。

因みに、移行先のアメーバブログはこのブログのひとつ前のものと同じアドレスを使用をしていますので、ご存知の方はこっそり覗いて見てください。(ただし、暫くは整理のためにごちゃごちゃ状態でのアップになっていると思われ…💦)

なお、メインブログがこちらである事に変わりは有りません。

今後ともよろしくお願いします。

2019年12月 ちはや
2019-12-01 (Sun)

【夏宵奇譚】第1章

【夏宵奇譚】第1章

 この国の王朝時代を記録した書物は数多くその存在が認められている。王宮に代々住まいながら、その記録を書き残すことを生業として生きてきた文筆官は、自分たちが書き残すその歴史という事実以外の事実を数多く知り得、知り得ながらも記録として後世に残すべきではないと判断した事を、あるいは口外不要とした言伝でその死の際に時代へ残し、あるいはその個人の記憶の中だけにとどめることとし、あるいはおとぎ話として後世に残...

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 この国の王朝時代を記録した書物は数多くその存在が認められている。王宮に代々住まいながら、その記録を書き残すことを生業として生きてきた文筆官は、自分たちが書き残すその歴史という事実以外の事実を数多く知り得、知り得ながらも記録として後世に残すべきではないと判断した事を、あるいは口外不要とした言伝でその死の際に時代へ残し、あるいはその個人の記憶の中だけにとどめることとし、あるいはおとぎ話として後世に残したり…。

 王宮の奥、さらにその奥の巨大な住まいの中で、あまたの女性たちの物語が紡がれては記録に残され、そして記憶の中に溶けて消えていった。
 そして、これはある時代のある一人の王の時代に紡がれた…そんなおはなし…。







【第1章 顔合わせの儀】

 その王朝はあるしきたりを実行しようとしていた。
 先代の王が逝去し、まだ年若い皇太子がその位を引き継いだ。
 王が代わると後宮の人員がほぼ総入れ替わりとなる。
 後宮とは、王の血を後世に残すためにすべての町から集められた女性が住まう場所。
 元居た女性たちは自分付きの女官一名を連れ、実家へと戻される。そして、空っぽになった後宮に、新王の妃となる女性たちが集まってくるのだ。

 後宮の門をくぐってその中に入れるのは、妃候補となる女性だけである。
「お嬢様、どうかご無事で」
 ここまで付き従ってきたそれまでの使用人はこの先に入ることはできない。
 王の妃候補…女性たちは自覚している。自分が第一位の妃に選ばれた暁には、この国一番の位につけること、自分の出身である町がどれだけ潤うかということ…つまりは、その地を治める官吏達のこの国での立場が変わってくるということ、を。
「大丈夫よ。うまくやって見せるわ。お父様によろしくお伝えして」
 妃候補の女性たちは一人、また一人。門をくぐって後宮へと姿を消していく。
 後宮へ足を踏み入れた女性たちには自分付きの女官一名が与えられる。
 女官…とは、男性が内官として事務全般を担うのに対し、幼いころから王族の住まう宮殿の衣食住の世話を任される女性の職員の事である。そして、王の目に留まれば側室の一人にもなり得る立場である。
 妃候補の女性は女官から王宮と後宮の事を学ぶ。女官は自分が使える妃候補がどれだけ優秀かで自分たちの王宮での地位が高まる。
 お互いに運命共同体ともなるのだ。
 しかし、既に「お互い」となる妃候補と女官の組み合わせが決まっている者も数多くいた。
 早い話が…官吏たちの根回し…である。
 そもそも、妃候補を集める時点で官吏と強いつながりがある者、裕福な実家を持つ者がこの場にいる。そして第一位の妃に選ばれるのも決まってその中から選ばれていた。
 だからなのか、女性たちはそれぞれの妃候補をいかに蹴落とすか、いかに王の目に留まるか、様々な陰謀を企ててきた。

 それ故に…。

 今度の妃選びも最初から波乱の予感しかない。


 後宮にはいくつかの殿閣がある。
 第一位の妃が住まうことになる中央の大きな殿閣。その左右には第2位と第3位の妃の住まいとなる東西の殿閣。さらにその後ろには第4位と第5位の妃の住まい。
 その後ろには小さな部屋がいくつも収まる殿閣が連なっている。
 妃候補の女性たちはひとまずそこに居を落ち着けるのである。


 今回のお妃候補は20名。
 女官長は各部屋を回りながら、何か不都合なことは無いか聞いて回っていた。
 妃が正式に決まるまで半年。
 それまで妃候補の女性たちは王宮のしきたりなど妃として必要な知識や礼儀を学ぶのである。
 もちろん、王の渡りもある。
 正式に妃が決まらないうちは中央の殿閣の一室に一晩泊る形をとるのだが…。
 先代の王には二人の妃がいた。妃以外の女性もいたが、それは側室と呼ばれるいわば特別なことがない限り褥を共にすることがない身分の者たちだった。
 さらに具合の悪い事に先代の王は第1位の妃を置かず、二人の妃を第2位と第3位の東西の殿閣に住まわせていたのだ。
 順列のつく殿閣に住まう妃二人であったが、実際のところ二人とも同列の妃として暮らしていた。
 そのことであまたの争いごとが絶えなかったわけだが…。
 現王の後宮は何としてもそんな争いは避けねばならない。
 女官長…スヨンは気を引き締めなおした。
 前任の女官長は権力に取りつかれ、第二位の殿閣に住んでいた…東の妃の肩をひどく持っていた。
 スヨンが女官として採用された当時、それは顕著に表れていて、第三位の殿閣に住んでいた西の妃は数多くの嫌がらせを受けていた。
 東の妃の実家は大臣を歴任する高級官吏。片や東の妃の実家は代々医師として王の主治医を務めてきた家柄。
 西の妃はたいそう頭が良く、東の妃からの嫌がらせも上手に避けていた。
 当時の女官長には東の妃とその父親である大臣の後ろ盾があると驕っていたに違いない。
 その小さなほころびはいつの間にか大きくなり、結局は彼女一人の責任として処罰され、スヨンがその後を継いだのだ。
 後宮でのもめごとは国のためにはならない。
 
 妃候補として集められる女性たちの入宮期限は3日間与えられている。
 全国から集まってくるため、遠方の土地を考慮しての事だったが、後宮に到着した順に部屋は割り振られているため、少しでも妃の殿閣に近い部屋に入るために、後宮の門が開かれる1週間も前から王宮付近の宿に泊まりその時を待つのだ。
 それ故、初日は後宮内部もかなり慌ただしくにぎやかになる。
 最終日の今日。ようやく最後の一人が後宮の一室に落ち着いた。
 20人全員を確認し、スヨンはひとまず安どの息をこぼした。
 明後日は正殿にて王との顔合わせがある。どの女性も自分をより引き立てようとして衣装に化粧にと準備に余念がないようだ。
 それぞれについた女官たちも大忙しである。
 一代に一度きりの大イベントともいえる妃選びはこうして幕を開けた。

「予定通り、すべての皆様が無事にお部屋に落ち着かれました」
 スヨンの報告を受け取ったのは、王が皇太子時代からそのそばに付き従っているコン内官だった。
「ご苦労だった。王にも伝えておこう」
 王の執務室。しかし、王の姿は此処にはない。
 スヨンは王の席をちらりと横眼で眺めた。
「王はどちらへ?」
「うむ。まあ…王宮内にはおられる」
「そうですか」
 ばつが悪そうに言葉を濁すコン内官であったが、スヨンは「またか」と声に出さずにつぶやき小さなため息をこぼした。
 王は机の前にただ座り、内官が目の前に置く書面に捺印をするだけの公務を良しとしなかった。

――一国の王たるもの、その目で見、その耳で聞き、その肌で感じねば国民を理解できぬ。

 今この王朝になってからの100年余り、大国に管理されているとはいえ、こうして王を抱くことが出来ている我が国は他国からの侵略もなければ領土を広げるための大きな戦もない。平和な国である。
 平和であるがゆえに、怠惰な政で国が荒れるのを見過ごすわけにはいかない。
 先代の王は体が弱いせいもあって、ほぼ臣下である大臣たちの言いなりでさえあったのだ。
 それが例の事件を引き起こしたのだが…。
 
「王宮内に居られるのであれば問題ありません。明後日は必ず務めを果たしていただくよう、コン内官からも申し伝えてくださいませ」
「うむ」
 若くして女官長となったスヨンの堂々とした態度に押され気味のコン内官であったが、彼女の心配もよくわかる。
 おとなしく王の椅子に座っていることのないあの方を…コン内官はどうしたものかと考えを巡らせるのだった。


 妃候補となった女性たちは、それぞれの出身から容姿、知識の豊富さを前面に押し出し、自分たちに与えられた女官をフルに使って大事な儀式への準備に余念がない。
 入宮期限の三日目。そこからさらに二日後には王との顔合わせの儀がある。
 そこでいかに王の目に留まることが出来るか。
 王の好みの女性はどんななのか。
 王は何を好んで口にするのか。
 王はどのような会話を好むのか…。
 王の御子たちは成人するまでは後宮に住むことを許される。が、成人を前に立太子した皇子と第二位の皇位継承権を持つ皇子はそれぞれ外宮に居を移さねばならないしきたりだ。
 
 後宮にはいくつか中庭のようなものがある。
 妃の殿閣に一番近いその中庭はかなりの広さを持っており、木々も程よく配置され東屋もあるため、妃候補たちで、まだ三日目ではあるが仲が良いものは此処でお茶の時間を過ごしていた。
 入宮初日の午前中のうちに入った、それなりに財も権力も持ち合わせる父親を持った娘たちだ。
 顔合わせの儀ではどんな衣装を身に着けどんな化粧をするのか…仲の良い当たり障りのない会話をしながら、互いにけん制し合い探りを入れていた。

「国母であらせられる東の皇太后さまはじめ、先代王のお子様方は皆今回の代替わりで王宮の別宮に移ってしまわれているし、女官たちもほぼ全員、後宮は初めての者たちばかり。王の事を聞き出そうにも知り得ないのであれば意味がないという物」
「まったくその通りね。私に与えられた女官も王はおろか王家の皆様のおそばで仕えたことなどまったくないそうよ。今回の後宮総入れ替えでここに配属になって浮かれているわ」
「女官は女官らしく立場をわきまえるべきよ。そう思わないこと?」
「ええ、ええ。まったくその通りですわ」

 中庭の入り口には、それぞれの妃候補に仕えることになった女官たちが並んで立っていた。
 わが主と決まった妃候補。今はまだ候補でしかないが、この先、誰が第一位の妃になるかで自分の後宮でも女官としての地位も変わってくるのだ。
 女官たちも無言ではあったがそれぞれをライバル視しているのだった。

 そんな後宮の、妃の殿閣からもっとも遠い部屋。
 今日最後に後宮にやってきた妃候補…チェギョンは与えられた部屋の中に置かれた座卓に突っ伏していた。
 後宮の門をくぐったその先で、一人の女官が自分を出迎えていた。
 女性にしては高い身長、すらりとした物腰、透き通るような白い肌。
 流石、王宮に勤める女官は違う。
 チェギョンはまじまじと彼女を見つめてしまった。
 しばらくそうしていたら、無表情の彼女の口元がわずかに綻んだ。
 妃候補、というならば彼女こそふさわしいのではないか。
 チェギョンはため息を漏らした。
「長旅でお疲れでしょう。すぐにお部屋へご案します」
 女官はチェギョンを先導し、与えられた部屋に向かった。
 それまで自分が住んでいた実家の部屋の何倍もある広いそこに、チェギョンは目を輝かせた。

『お前なら絶対妃になれる』

 上機嫌で送り出してくれた父は、片田舎の…一代で財を成した商人で、早い話が成金だ。
 お嬢様、と使用人はそう自分を呼ぶが、そうなったのは物心もとうについた10歳のころだったし、本当なら隣町の商人の息子と結婚して、子を産み、普通に人生を終えるはずだったのに。

『王が逝去された。ついては1年後、妃を決めることとなった。この町からも妃候補を一名選出するように!!』

 王宮からの使いが街の中央の広場で大きな声を張り上げてそういうのをチェギョンは他人事のように聞いていた。
 ところが、他人事では終わらなかった。
 チェギョンの住む町は王都からかなり離れた田舎であり、地方に派遣されてい来た官吏も権力にしがみつくようなものではなかったし、若い娘たちは、憧れはすれども後宮に上がるということに尻込みした。
 結果、くじ引きで決められたのである。
 妃候補として年ごろの娘たち10人ほどが官吏の屋敷に集められ、箱の中から伸びた紐を同時に引くよう言われた。
 悲しいかな、紐の先が赤く塗られていたハズレ…いや、アタリくじを引き当てたのはチェギョンだった。
 なので、実際にこうして妃候補として後宮にやってきて、自分に与えられた広い部屋に感動はしたものの、どうやったら妃にならずに済むか、まずそれを考えてしまった。
「チェギョン様。お荷物はそれだけでございますか?」
 女官はチェギョンの背中にくくられていた大きな風呂敷包みと、その手に抱えられた着替えなどが入っていると思われる大きな袋を見て言った。
「ええ、そうなの。衣食住のすべては支給されると聞いていたので…」
「かしこまりました。それではお着替え用の衣装をいくつか見繕ってまいりますのでお待ちください」
 女官はチェギョンを残してどこかへ行ってしまった。
 一人になったチェギョンはとりあえず部屋を物色し始めた。
 部屋は奥に二部屋あり、それぞれに使い込まれているが趣のある調度品が置かれていた。
 一番奥は寝室のようで、格子窓からは庭だろうか…竹の葉が見える。真ん中の部屋には座卓が置かれていて、硯と筆と紙が用意されていた。
 チェギョンは抱えていた袋をまず足元に下ろし、次いで背中の風呂敷包みを大事にそっと座卓のわきに置いた。
 そして自分はペタンと沿いの座卓の前に座って突っ伏すような姿勢になった。
 シンとしていて、聞こえるのは竹の葉のこすれ合うかすかな音だけ。
 他にも妃候補がいるはずなのに、そんな気配は感じられなかった。
「大丈夫かな…私」
 ぽつりとつぶやいた。
 自分付きの女官はいくつか衣装を見繕ってくると言った。どこにその衣装があるのかは知らないが、すぐには戻ってこないだろう。
 チェギョンは風呂敷を解いて中から琴を取り出した。
 その琴は大陸から伝わった女性用の楽器で、12本の弦は絹糸を使用している。
 お金持ちになった父親がチェギョンに与えたものの中で、これは一番のお気に入りとなった。
 妃になるつもりはないのだから、嫁入り道具のような仰々しいものはいらない、と断り唯一持ってきたものがこれだ。
 軽く指で弦をはじき音階を合わせる。
 長旅ではあったが大丈夫そうだ。
 持ち運び自由のそのことを抱え、寝室の扉から外に出た。
 さわさわと風が竹の葉を揺らす。
 その心地良さにチェギョンは思わず目を細めた。
 少しだけ歩くと大きな岩があり、腰かけるにはちょうどよさそうだった。
 そこに座り、琴を膝に置いてお気に入りの一曲を弾き始めた。ゆっくりとした調べに、チェギョンは小さく体を揺らしてリズムを取りながら小さな声で歌を交えた。
 その時だった。
 竹の葉が大きな音を立てて揺れた。
 あの女官が自分を探しに来たのかもしれない。
 慌てて事を抱え立ち上がったチェギョンの前に現れたのは、内官服の若い男だった。
 ここは後宮のはずだ。女官しかいないと思い込んでいるチェギョンは驚きで目を見開いた後、口を大きく開けて息をたくさん吸い込んだ。肺に空気が満タンになるのと同時に、その声を上げようとしたのだが。
「待て待て待て…!」
 若いその男は咄嗟にチェギョンの口をふさいだ。
 声はふがふがと男の手の中でもだえるのみ。
「頼むから大声はよしてくれ」
 少しばかり抵抗の力が緩み、声も引っ込んだのを確認して、男はゆっくりと手を離した。
「あ…あなた…誰?」
「俺は…内官で後宮の女官との連絡係みたいなものだよ」
「みたいなもの?」
「それより…お前は?ここは後宮で今日は妃候補の娘たちが入宮する最後の日だが…。その格好は女官でもないし…」
 チェギョンは自分が今着ている服を思い出した。旅の衣装のままで着替えもせずにここで琴を弾いていた。どう見ても妃候補には見えない。
「えーと…」
 妃候補だと説明してわかってもらえるだろうか?
 そう考えたところで、もっと悪いことが頭をよぎった。
 妃候補なのだ。王以外の男性に内官とは言えこんなに近づいていいのだろうか?
「…琴」
「うん?」
「琴の演奏で…その、王宮に呼ばれていて…」
「ああ、離宮の皇太后さまたちが明後日の儀式の後に開く宴で楽団を呼んだと聞いているが…。ここは後宮と離宮の境目みたいな場所だからな…」
 男は顎に手をやり何か考え事をしながらふむふむと頷いている。
 咄嗟についた嘘だったが、偶然にも楽団の一行が王宮に滞在していると聞きチェギョンは安心した。
 それにしても後宮と離宮の境目で、このように内官が出空けるくらい人気がない場所。自分が案内された部屋はずいぶん端っこ…道理で人気がないと思った。
「まあ…田舎のくじ引きで決まった妃候補なんてこんなもんか」
 思わずぽつりとつぶやいたチェギョンの声に、考え込んでいた男が軽く反応した。
「うん?」
「何か聞こえました?」
 慌ててごまかし、もう余計なことは話すまいと再び岩に腰を下ろし、琴を弾き始めた。
「ほう…かなりの腕前と見た」
 男が感心したようにチェギョンの手元を見ている。
 その時、再び竹の葉が大きな音を立てて揺れた。
 風ではない。先ほど目の前の男が現れたように、誰かがこちらに向かっているのだ。
 慌てたのは男の方だった。
「すまない、俺はもう行かなくては」
 男は音とは反対の方向に駆け出そうとして、ふとその足を止める。そしてチェギョンと目が合った。
 その時初めて男が整った顔立ちで切れ長な目を持っていることに気づきドキリとした。
 ところが…
「お前、琴の腕はなかなかのものだが、歌はいただけないな」
 憎らしいほどにニヤリと笑って見せて、男はまた竹林の中に消えていった。
「な…何様~~~!」
 チェギョンは顔を真っ赤にして地団太を踏んだ。
「こちらにおいででしたか」
 竹の間から姿を現したのは自分付きの女官だった。
「衣装をご用意しましたのでお部屋にお戻りを」
「わかりました」
 チェギョンは琴を抱えると、先行く女官に従って部屋へと戻った。
 女官が用意してくれた衣装はさすが王宮のもの。絹のさらりとした感触が心地良い。
「こんな衣装は何かお祝い事があった時しか袖を通すことなんてないわ」
「チェギョン様はお妃候補でいらっしゃいます。ここにいる間のすべてはお妃となられるために必要なものだとお思い下さい」
「わかったわ。そういえば、あなたのお名前は?」
「ハヌル…と申します」
「ハヌル、ね。短い間だけどよろしく」
 チェギョンは右手を差し出す。
「短い間…とは?お妃となれば私はあなた様にずっとお仕えすることになりますのに」
「妃になれば、でしょう?それはあり得ないわ。この部屋の位置だって後宮の端っこ。お妃さまの住まう殿閣とはずいぶん離れているようだし、他の妃候補の気配もない。最初から義務で呼ばれただけの私なんかが妃になれるはずもないわ。半年後にはここを出て家に帰れる。それまでよ」
 差し出した右手をいつまでも無視されて、チェギョンは強引にハヌルの手を取り握手した。
「よろしくね」
 ハヌルはくすりと小さく笑ってチェギョンの手を握り返した。
「他のお妃候補のお嬢様たちとはずいぶん違いますね。王宮に勤めてまだ数年ですが、あなたのような方は初めてです。それから…」
「なあに?」
「私の勘は外れたことがありません。あなた様は…ここにずっと居てくださるような気がします」
 チェギョンはほんのりと頬を赤らめた。ハヌルは自分が妃になれるかもしれないと言ってくれているのだと思って。
「ずっと…その命が尽きるときまで…」
「え?」
 ハヌルのきれいな目がチェギョンをじっと見つめている。
 その瞳に吸い込まれそうになり、ぐらりと体が揺れて手が離れた。視線を外し倒れそうになる体制から思わず踏ん張って、再度ハヌルを見つめた。
「大丈夫ですか?」
「ええ…」
「それでは、末永くよろしくお願いしたします」
 ハヌルはふわりとした笑みを浮かべた。
 
 
 
 翌日。
 チェギョンは明日行われる〈顔合わせの儀〉に着るための衣装をハヌルとともに選んでいた。
 公平を期すために衣自体はどの妃候補も同じ色形を着ることになっている。が、化粧や装飾品は自由だというのでハヌルは色々用意してくれていた。
「お妃選びが始まった、ということで王都の商人たちが女官の詰め所に出入りしているのです」
「でも、私こんな高価なもの買うお金なんて持っていないわよ」
「大丈夫です。実は私の実家が王都ではそれなりに裕福な家ですので、援助をしてもらっていますから」
「そういう問題じゃないわ。私が身に着けるものをあなたのお給金やあなたの実家のお金を使って用意する必要はないって言ってるのよ」
「いえ、これはチェギョン様にお仕えすると決心した女官の私が、仕える主人のために先行投資させていただくものです。お妃さまになられた暁に返してくださればそれでいいのです」
「先行投資…って」
 ハヌルも王宮で女官としての立場やら何やらがあるのだろう。可能性が一番低い自分に先行投資だなどと、ますますもって申し訳ない。
 しかし、有無を言わせぬ態度で次々と装飾品を決めていくハヌルに、チェギョンは反抗する気も薄れて行ってしまった。
 数時間後。鏡に映った自分の姿にチェギョンは思わず見惚れた。
 派手な飾りは一切ない。それなのに、流石と言うかなんと言うか。
「顔合わせの儀の後、皆様の絵姿を作成することになっているのです。飾りも何もない絵姿では申し訳ないと思いませんか?」
 なるほど、とチェギョンはうなずいた。
「それではこちらに明日は化粧を施して儀式に望まれる…ということでよろしいですね?」
「わかったわ」
「それではこちらを片付けてまいりますので、しばらくはごゆっくりお過ごしを。後ほど明日の儀式の作法など説明させていただきます」
 ハヌルが居なくなり、チェギョンは琴を抱えて庭へと出た。昨日のあの岩へ行き、琴を弾こうと思った。
 竹をかき分け、昨日と同じ場所にたどり着き、琴を弾く。
 そうしていると、また、昨日と同じく竹の葉が大きな音を立てて揺れた。
 もう驚きはしない。
 チェギョンは琴を弾く手を止めなかった。
 ただ気持ちよく弾いて、演奏が終わった後に目の前に立つ男を見上げた。
「こんにちは」
「やあ、今日も此処で練習?その岩がちょうどいい椅子になってるみたいだな」
「まあね。あなたこそ、今日は何の用事?」
「お前を探してた。昨日と同じ時間にここに来ればいるような気がして。だから、やっぱりここにいることがわかって嬉しかった」
 ニカっと破顔した男の表情にチェギョンの胸はドキリとした。
「明日の宴でも演奏するんだろう?」
「い…いや~どうかな?」
「楽団の一員なんだろ?」
「うん、そうなんだけど。私はまだ新参者だから裏方…とか?」
「それだけうまく弾けるのにか?お前の楽団はかなり厳しいんだな。まあ、王宮に呼ばれるくらいの楽団だからそれなりか」
「まあね」
 チェギョンは何とかごまかしたが、なんとなく気まずい雰囲気になり立ち上がった。
「どうした?もう弾かないのか?」
「うん、もう行かなくちゃ」
 昨日とは逆だった。
 チェギョンの方がこの場から立ち去りたかった。
「また会えるか?」
 なぜ?
 チェギョンの胸はドキドキしていた。なぜまた会えるか?と聞くのか。
「ど…どうかな?」
「俺も毎日は来れないが…もし、よかったら、よかったらだが…この時間にここでお前の事を聞かせて欲しい」
 男の言っていることがすぐには理解できなかった。楽団の一員だと思っているのなら「また」とか「この時間」とか、そんなずっとチェギョンが王宮に居る事を知っているかのようで何か怖くなった。
 そして、昨日のハヌルの言葉が頭の中によみがえる。

――私の勘は外れたことがありません。あなた様は…ここにずっと居てくださるような気がします。

 目の前の男はただの内官ではないのかもしれない。いや、そもそも内官なのか?王直属の隠密か何か?チェギョンを監視しているのか?
 まずいことになった…。
 チェギョンは琴を抱えると元来た道に向かって駆け出した。
「おい!お前の名前を教えてくれ!」
 名前など…教えられるものか。自分は男の名前すら知らないというのに。
 男の声が背後から聞こえるが無視をしてその場から急いで立ち去った。
 
 自分の部屋に戻ると、バクバクする心臓のあたりを抑え込む。
 妃候補として自分はここに来た。多分、いや絶対に自分はお妃にはならない。半年後にお妃に選ばれなかった場合、女官としてここにとどまるか、さっさと田舎に帰るか。
 後宮の門をくぐったその時まで自分は半年後家に帰れるのだと、気楽に考えていた。
 でも…もし帰ることが出来なかったら?
 きれいな服を着て、お妃さまになるための教育も受けさせてもらって、教養を身に着けさせるのは何のため?
 ハヌルの外れたことのない勘とやらがその理由を現しているように思えた。


 顔合わせの儀、当日。
 チェギョンはようやくほかの妃候補の存在を実感していた。
 列の最後に並んだチェギョンを誰も気にする風もない。先頭に近くなればなるほど、実家での財力や権力を現している。皆、衣裳は同じなのに、化粧や髪飾りできらびやかだった。
 王宮の正殿。100年以上続いている現王朝以前のそのまた以前の…とにかく、何度も王の名を取り換えてもなお存在し続けているこの王宮の正殿は、王の居室や執務室があるだけでなく様々な儀式も執り行われる巨大な殿閣でもあった。
 顔合わせの儀が執り行われるその場所は、大国からの使者を出迎える場合など、特別な時に使用されるところで、高い天井とそれを支える太く長い柱が等間隔で設置されている。
 正面の玉座には年若いこの国の王がすでに座っていて、並んで入ってくる妃候補たちを眺めていた。
 すでに妃選びは始まっている。
 玉座の正面に20人の妃候補が横一列に並んだ。
 チェギョンは左端に立ち、初めて感じる雰囲気にのまれ、緊張してとにかく起立し続けることに集中していた。
 大臣がなにやら話しているが、その内容など一つも頭に入ってこない。
「ちょっと!」
 チェギョンの隣にたつ妃候補の一人がチェギョンの腕を揺さぶる。
「え?」
「あなたの番よ!」
「ええっ?」
 チェギョンはきょとんとして彼女の顔を見る。どうやら自分の名を自分の声で述べるらしかった。
 大臣の話を緊張で聴いていなかったチェギョンは、急に振られて思わず視線を泳がせた。
 イライラした大臣の一人がチェギョンの元に歩み寄ろうとしたとき、玉座の方から笑い声が聞こえてきた。
 ざわつく室内。
 笑い声の主は王だった。
 玉座から立ち上がり、階段を下りてゆっくりとチェギョンの元へ向かってくる。
「王陛下!」
 王の歩みを止めようと大臣の何名かが声を荒げるが、王は優雅なしぐさでそれを押し止めた。
 チェギョン御目の前に王が立った。
 チェギョンは大きく目を見開き、そのあまりの出来事にますます声を出すことが出来ない。

「そなたの名前を聞かせてくれないか?」
――お前の名を教えてくれ!

 内官だと名乗ったあの男が昨日、チェギョンに向けて放った言葉と被る。
 昨日は名乗る者かと必死に逃げたが、今日はそうもいかない。
「…チェギョン…と…申します」
 喉の奥からようやく絞り出した声は少しだけかすれていた。
「そうか…チェギョン、というのか」
 王はにっこりとほほ笑むと、自らの手のひらをチェギョンの頬に添えた。
 大臣たちからはざわめきと、妃候補たちからは小さな悲鳴が聞こえる。
「半年、励むがよい」
 王からのその言葉が何を意味するのか、その場にいた全員は理解していた。
 つまりは…今この20人の中で最も妃に近いのはチェギョンだということだ。
 片田舎のくじ引きであらばれて物見遊山気分でやってきたこの王宮で、半年後にはすんなりと家に帰ることが出来るのだと思っていた二日目の自分はもういない。
 ハヌルの勘の通り、このままでいけば、チェギョンは此処から…後宮からは出て行くことが出来なくなる…。
 
 チェギョンは茫然と立ち尽くすしかなかったのである。
\(^o^)/ * by おはな
ちはや様

お久しぶりです。新しい素敵なお話ありがとうございます。
時々のぞかせていただいて、お家はどうなったのかなー?とか
本の販売はいつかなー?とか・・・首をながーくして、かしこく(?!)
お待ちいたしておりました。
これからも、楽しませていただきますので、よろしくお願いいたします。

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* by tiem
ちはやさん、こんにちは。
お久しぶりです

お話の方、書き綴られたのですねぇ(^^)
ありがとうございます。
シン君に、お妃の話しが。
20人近い候補者が宮殿内に。
この方々の中から妃殿下を。
そんな中、チェギョンも妃の候補として宮殿内に。
父親は成金で地位を。
娘チェギョンは、持参した品も少なかったようですねぇ。
琴を持参し、そのことを弾いていたチェギョン。
そこで一人の男性との出会いが。
このお方、誰かしら??
これから先、数々の試練を受け、妃になんでしょうねぇ。
どんなことが待ち受けていくのか、楽しみです(^^)

Re: \(^o^)/ * by ちはや
おはなさん

お久しぶりです。プライベートでごたごたが起こったのと仕事の忙しさからPC自体触れずにいました。
何とか気持ちに余裕もでき、お話を書きたい病が復活したので、ゆっくりのんびりと更新していきたいと思います。



Re: お久しぶりです * by ちはや
2019-12-08-01:03 [鍵コメ]さん

ずいぶんと間が空いてしまいました。
連載の続きではないのですが、そのおはなしともリンクしていく物語になっていますので、また読んでいただけると嬉しいです。



Re: タイトルなし * by ちはや
tiem さん

久しぶりにお話をUpすることが出来ました。
のんびり更新ですがよろしくお願いします。

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2019-11-29 (Fri)

お久しぶりとお話のアップについて

お久しぶりとお話のアップについて

かなりのご無沙汰をしております。ちはやです。1年以上、お話を書くことが出来ずにいましたが…この度、連載の再開をさせていただくことにしました。お話本編となる「欠片」ではないのですが(続きをお待ちいただいている皆様には申し訳なく思います)、その「欠片」を書くことになったきっかけになったお話から派生したものになります。シン君とチェギョン、その後二人の子供たちが登場するお話で「真夏の夜」シリーズから。本編...

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かなりのご無沙汰をしております。ちはやです。

1年以上、お話を書くことが出来ずにいましたが…この度、連載の再開をさせていただくことにしました。

お話本編となる「欠片」ではないのですが(続きをお待ちいただいている皆様には申し訳なく思います)、その「欠片」を書くことになったきっかけになったお話から派生したものになります。

シン君とチェギョン、その後二人の子供たちが登場するお話で「真夏の夜」シリーズから。

本編に登場する「彼」の」正体を知る上での大事なお話の一つでもありますし、これまでのちはやのおはなしやドラマを見ていない方でも読んでいただけるものに立っています。

1章ごとに書きあがり次第Upしていく予定です。

最初のアップは12月1日を予定しています。

よろしくお願いします。


2019年11月某日  ちはや
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Re: 今晩 * by ちはや
2019/11/29 [鍵コメ]さん

お久しぶりです!ようやくお話を書く余裕が戻ってきました。のんびり書き綴っていきますのでよろしくお願いします。

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2018-12-19 (Wed)

メッセージ

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こちらは、韓国ドラマ「宮」のその後のお話を、ちはやなりに解釈、妄想したうえでの二次小説をメインとしたブログです。訳あって2度目の引っ越しとなりました。...

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こちらは、韓国ドラマ「宮」のその後のお話を、ちはやなりに解釈、妄想したうえでの二次小説をメインとしたブログです。

訳あって2度目の引っ越しとなりました。






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2018-07-17 (Tue)

2018.7.16 梅雨明け…のつぶやき

2018.7.16 梅雨明け…のつぶやき

こんばんは、ちはやです。7月に入り、西日本では大きな地震や豪雨などの災害が発生していて、たくさんの犠牲者の方も出ていて、ニュースを見るたびに心が痛みます。東日本大震災の時は、たくさんの皆様から励ましのコメントをいただいたことが思い出されます。今度はちはやがお返しをする番。何ができるわけでもなく、こうしてお話を書くことしかできず歯がゆいのですが、どこにいてもできる「募金」でまずはお返しをさせていただ...

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こんばんは、ちはやです。

7月に入り、西日本では大きな地震や豪雨などの災害が発生していて、たくさんの犠牲者の方も出ていて、ニュースを見るたびに心が痛みます。

東日本大震災の時は、たくさんの皆様から励ましのコメントをいただいたことが思い出されます。

今度はちはやがお返しをする番。

何ができるわけでもなく、こうしてお話を書くことしかできず歯がゆいのですが、どこにいてもできる「募金」でまずは
お返しをさせていただくことにしました。

少しでも早く日常が取り戻せますように。


さて、間もなく夏休み突入ですが、夏休みとは無縁になって二年目。

なんだかんだと予定が入り忙しい毎日を過ごしております。

いつもであれば定期発行本の支度を始めているところですが、今回はどうするかまだ決めていません。

決まり次第またお知らせしたいと思いますのでしばらくお待ちくださいね。


それでは、今夜はこの辺で…。


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2018-07-17 (Tue)

【欠片】その51

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2018-07-17 (Tue)

2018.7.16 までの拍手コメントへのお返事

2018.7.16 までの拍手コメントへのお返事

通常コメントへのお返事はそれぞれの記事コメント欄にて。こちらは拍手コメントのみへのお返事となります。お心当たりの方は「続き」からどうぞ。▼よろしかったらぽちっとお願いします。...

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通常コメントへのお返事はそれぞれの記事コメント欄にて。

こちらは拍手コメントのみへのお返事となります。

お心当たりの方は「続き」からどうぞ。




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